旧大蔵省の政策ミスを指摘した麻生氏
私は現在の閉塞社会の元凶は冷戦終結による米国の国家戦略に基づく米国復権戦略にある、と理解していない日本の政府行政当局にあると思う。そして、旧大蔵省が90年4月に出した一片の通達に基づく行政指導(不動産融資総量規制)に始まる一連の地価強制下落策が、現在のデフレ不況の原因であるとかねがね本誌で主張してきたが、先日、中央公論(4月号)誌に掲載された麻生太郎自民党政調会長の論文を読み、かねてからの私の論調に近いことに感慨を得た。
麻生氏はその中で『小泉内閣が真に解体すべきターゲットは、官僚主導型業界協調主義 による悪しき経済システムである。なかでも財務省は、日本を長い不況に陥れた元凶である。 当時の大蔵省は、バブルへの対応を間違えた。バブルは昔からあったし、たとえ現れても放置しておけば消えていくものだ。にもかかわらず、大蔵省は総量規制という名のもとで土地保有税、譲渡取引税などを引き上げて、地価を急激に下げてしまった。その結果、商業用地は全国平均で地価が83%も下がり、100万 円の土地が17万円になった。土地が絶対的な信用だった金融機関や企業の経営者からすれば、対応限度を超えたものである。銀行は莫大な負債を抱え込み、建設、流通、みんなおかしくなってしまった。大蔵官僚による愚策の背景にあるのは、私企業で働く者への嫉妬だろう。自分たちは東大を苦労して出たのに、残業しても官舎暮らし。かたや私大出なのに私企業の奴は家を買って、しかもそれが値上がりしている。それに対する嫉妬が根底にあってバブル潰しにかかったのだ。しかし現財務官僚にも反省がない』と、非常に厳しい指摘をしている。私は麻生氏の論文のすべてを評価するわけではないが、事業家として、社会時評エッセイストとして見れば、かなり評価できる。いま思えば、自民党総裁選で麻生氏を選んでおけば、日本は少しはいい選択だったという気もする。少なくとも総理になる人物は、麻生氏のように自分の政策を論文にして世に問うくらいの能力がなければ資格はない。
麻生氏は『インフレターゲット論も円安誘導にしても間違いであり、ペイオフ解禁も反対である。財務官僚は大蔵省に入るために勉強し過ぎて記憶力が退化してしまったのかと皮肉の一つも言いたくなる』と痛烈に財務官僚を批判するとともに、公共事業を敵視するのは間違いであると断言し、『総理は「30兆円」にこだわっているが、大切なことは何に使うかである。いま公共事業というと目の敵にされるが、公共事業とは、国家に必要なインフラを整備するためのものである。それを一律に目の敵にするのは間違いである』と、している。
これらの主張は、かつて私が本誌で述べてきた論点に近い。私の考え方に近い正論を明快に述べる政治家がいて、正直、ほっとする思いだ。
私は、政治家は自らの世界観、歴史観、国家観を持ち、世界の時事・経済・軍事に強く、国家戦略を描けなければいけないと思う。そしてそれを論文にして世に問うべきである、と言いたい。国民がどう考えているかをテレビで覚えて自説とするいわゆる「世論調査型大衆迎合政治家」が日本をダメにしている。そもそも日本における世論とはマスコミがつくりだした「ムネオ」「マキコ」「キヨミ」に見られる、主婦レベル受けのワイドショー世論である。本来、政治家は政策内容や理念を有権者に表明して、それが選挙で支持され当選し、同じ志を有する政治家が集まって政党をつくり、その多数派が政権を担うのが議院内閣制なのに、マスコミ世論に迎合するポピュリスト政治家ばかりになってしまった。麻生氏は小泉首相が躓くとしたら『自分の言った言葉にとらわれ過ぎるときだろう』と述べている。が、小泉首相は最初から自民党員でありながら「自民党を壊す」という逆説的な発想で自民党総裁に選ばれた総理なのだから、まさにパラドックスである。彼が正論を吐けば、自己矛盾に陥り存在意義を失うし、政策を変更すれば、早晩、支持率は急落し退陣は間違いないものとなる。小泉政権の後は世界観と歴史観と国家観に基づく国家戦略をしっかり持ち、国益を考え、世界の時事・経済・軍事に精通する総理の登場を望みたい。
今日の政治家、外務官僚をダメにしたのは、戦後の日本において支配される平和に甘んじて軍事にまつわることの全てを忌避してきた結果であり、軍事を知らない一国の指導者は世界にはいない。外交とは国益に沿って力の均衡をとることであり、そのための言葉での交渉が外交であり、力での交渉が戦争である。
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