世論調査は識者の総意にあらず
先日の時事通信社の世論調査結果によると、ペイオフ解禁について「予定通り4月に実施すべき」と答えた人が47%と、「延期すべきだ」の32%を上回った。失業や倒産が増えても不良債権処理を進めることに「賛成」46%と「反対」28%より多い。また、不良債権処理の過程で銀行の自己資本が減少した場合、金融システム安定化のため国民の税金である公的資金を投入することに「反対」60%、「賛成」23%であった。全国の成人男女2千人を対象に面接方式で実施したものという。
このアンケートの結果通り、ペイオフの解禁が行われたならば、風評被害により、まだやっていける銀行の多くが預金の取り付け騒動に巻き込まれて、預金の大量流出する事態に陥るであろう。その結果、貸し出し業務が停滞し、銀行は貸し渋りして預金の減少に対応しようと躍起になるはず。そういう状況下で、さらに不良債権の処理を急ごうとすれば、その不良債権の負担を背負い込む銀行の自己資本比率がますます減少し、貸しはがしが加速することとなり倒産が続出する。つまり、負の連鎖が止めどなく広がっていくわけである。
ましてや60%も反対する世論に従い、金融システムがおかしくなっても公的資金を投入しなければ、多くの銀行の預金が激減して、一部の健全と思われる銀行にだけ預金が集中することとなり預金が偏在し、集まり過ぎた銀行は運用もできず、預金の受け入れを停止する事態にまで発展することになろう。笑い話ではない。かつての金融恐慌時代、そのようなことがあったのだ。こういう事態となれば、銀行による資金の仲介機能は完全に麻痺し、倒産と失業者が莫大な数に上ることは言うまでもない。
私は今回の世論調査の結果を見て、対象相手のほとんどが金融システムを十分に理解していない人ばかりだったのではないかと思う。事業経営者やある程度の金融知識がある人たちを対象にしたならば、結果は全く逆のものとなったはずである。
ここまでくれば小泉首相は自らの延命のためにもペイオフの解禁は予定通り実施するであろうが、既に始まっている貸し渋り信用収縮によるリストラと倒産で、失業率が増大し続ける中、なぜあえて今、ペイオフの解禁を急ぐ必要があるのだろうか。
地価と株価がスパイラルに下落しデフレ不況の最中、不良債権の処理を急げば、さらなる不良債権の発生を生むだけで、処理しても処理しても一向に不良債権は減るまい。減るどころか増える一方であろう。その不良債権処理を急ぐべき、と小泉首相は言っているが、結果はどうなるか。一気に倒産と失業が増えるだけである。小泉首相の公約の一つである国債30兆円枠についても「守るべき」と答えた人が48%もいた。確かに、造ったときから壊すまで赤字が予測される箱もの公共工事で造った赤字を孫子の代まで先送りするのは忍びない。が、孫子の代にも有益なインフラ投資をカットしてまでこだわるべきだろうか。民需が停滞している今こそ、公共部門の需要創出を図るべきであって、30兆円枠を足かせにすべきではない。
このところ私には、小泉首相の掲げる公約のすべてが、日本を破滅に追い込む時限爆弾の点火装置に着火して歩いているように見えてきた。このままでは、痛みが痛みだけで終わらない。
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