2002年 1月号


ペイオフ解禁は命取り

 先日の日経新聞の社説を要約すれば、「政府は金融機関の経営に不安はないとして、予定通りペイオフ凍結の解除を主張しているが、今必要なことは、公的資金投入等で金融システムの安定化を計ったうえで、予定通りペイオフ凍結を解除すべきで、銀行に不安はないのでペイオフを解禁するというのはあまりに無責任である。そしてもっと最悪なのは、金融システムに対する不安に応えないまま、結局、ペイオフの最延期に追い込まれることである。」とあった。
この社説を読んで、私は政府の「銀行に不安がないのでペイオフを解禁する」という言い草を鵜呑みにする人間がこの日本に何人いるだろうかと思うとともに、日経新聞に対しても、現下の情勢に鑑みペイオフ解禁をしても金融システムに不安が無いようにするのには、銀行にどのくらいの公的資金の導入が必要になるのか、またその資金を投入して一時不良債権を処理しても、新たな不良債権の発生の原因である資産デフレに歯止めを掛けずに不良債権問題は解決できるものなのか、本気で問い質してみたいと思った。
金融システムを破綻寸前にまで追い込んだ元凶は地価と株価の下落である。いつまでも続くこの地価の下落に歯止めをかけることが金融システムの安定、ひいては日本経済の復活に不可欠な施策であることは、私は毎回このエッセイで述べ続けてきた。日経の社説がそのことには全く触れず、政府のペイオフ解禁について「無策で再延期は最悪」と論じるこの社説に少なからず不安を感じた。
公的資金の投入で今ペイオフを実施しても、金融システムに揺らぎのなくなるまで投入するとなると、その金額は膨大なものになる。そして、そのことは金融機関のすべてを実質上の国有化することにつながり、これは政府の徳政令であって、超膨大な税の投入が必要である。
金融監督庁が掌握している大手30社を処理すれば景気は良くなるなどという甘い観測は通用しない。大事なのは、ここまで巨大化した不良債権の処理を短絡的に急がせることではなく、今は不良債権のさらなる発生を防ぐことである。そのためには、これ以上の地価と株価の下落を絶対にさせないことだ。
株価の下落の根本原因はいつまでもスパイラルに続く地価下落にあると言ってもよく、この地価のさらなる下落を防ぐために、私が毎回口を酸っぱくして述べているのが、「不動産に対する取得と譲渡と保有にかかる税の大幅減税」である。時限立法でもよいから思いきって取得と譲渡にかかる税を0税率とすべきである、とかねがね言い続けているものの、いまだマスコミも政治家もエコノミストといわれる経済評論家も、そのことにはほとんど触れない。


小泉政権の盾は田中外相

 税率の大幅軽減なくして地価の安定はなく、またこうした無策の状態でペイオフを解禁すれば、金融システムの崩壊の可能性は極めて高い。すでに公的資金の再投入なしでは、その経営を維持できないところにまで追い詰められている金融機関に公的資金の投入等抜本的な対策をとったうえで、日経新聞の社説とは逆に、むしろここは3年から5年ぐらいはペイオフを見合わせるべきである。そしてこの間に地価の下落をストップさせることに全力を傾け、株価を健全ラインまで引き上げる施策を講じることを私は勧めたい。そのために、消費税を諸外国並みに10%台に引き上げても、登録免許税や取得税、建物消費税、譲渡取得税、固定資産税、事業所税等を思いきってその一部は時限立法であっても、不動産の取得と保有にかかわる税の全てを大幅減税するとともに、投資減税や加速度償却制度を実施すべきである。この制度により、不動産が流動化しインフラの進んだ都市部の地価の値上がりと郊外地の地価の値下がりで、地価が実勢価格(収益還元価格)に収斂される。そして、投資減税と加速度償却制度により株価の値上がりと需要の創造により景気は上向きに転ずる。併せて、大幅な所得税の減税を実施することで消費の喚起を図り、景気が回復して初めてペイオフ凍結解除が可能になると思う。
ところで、聖域なき構造改革という言葉だけが一人歩きして、いまだ改革の中身も成果も見えぬ小泉内閣に私は失望を隠せない。改革に痛みを伴うという公約は、格好はいいがそのまま日本経済が破局へと進み、痛みどころか死んでしまうのでは、と危惧してしまう。歴代の総理と比べても、ほとんど改革が進まず、まさに無策と言ってもよい小泉政権の頼みの綱はやはり国民の高支持率。その維持の最たる所以は、田中外相のパフォーマンスと人気に負うところが大きい。彼女の馬鹿馬鹿しいとも思えるワイドショー的な言動が主婦層に受けマスコミを騒がせ、その陰で小泉政権の脆弱さが覆い隠されている現実。醜態を見せずに高支持を維持しているわけがここにある。
もう少しまともな外相だったら、今回の機密費問題のようなスキャンダルが起きれば、一気に改革を進められたのではないだろうか。小泉政権のように改革、改革と唱えていらぬ敵をつくらなければ、逆に改革はスムースに進んだのではなかろうか。私には、改革を叫ぶがゆえに、既存の体制を温存させているように思えてならない。やはり、パフォーマンスや人気ではなく、政治は理詰めでブレーンを固めてやるべきである。
景気回復を拒む不良債権問題にしても、今も地価が下がることは良いことだと言って憚らない、政治家と官僚、マスコミ。それに躍らされてやみくもに狂信する国民。自らの資産が目減りするのを称賛するようなこの自虐的ともいえる思考はどこから来るものなのだろうか。いつから日本はこんな可笑しな国になってしまったのだろう。残念ながら、自虐的な国家に明るい未来があるとは私には到底思えない。


偏差値教育とデジタル人間

 可笑しな国となった原因を追及していくと、いつものように教育問題に辿り着く。与えられた情報を吟味もせずに丸暗記することをよしとする教育。偏差値を高めて一流と呼ばれる学校に進学することがすべてという風潮。物事に疑問をもたず何が正しいかをディベートして探し出すということなく、傾向と対策に頼る受験テクニックを磨き、出題範囲内の事柄をどれだけ多く記憶しえたかが合格の決め手となるような受験システム。高学歴者とは18歳時の記憶容量と受験テクニックに秀でた者を指すといってもよく、わが国は他国では考えられない偏差値馬鹿が罷り通る不思議の国である。
そうした受験戦争に勝ち残った人たちが官僚になり、大企業に入り、マスコミで幅を利かせている。また、政治家となって、A新聞やN新聞の社説を棒読みし、同僚と同じニュースソースを基にした情報交換をして自らが常識人であることを確認して安心する。今日の新聞の記事は記憶しているが、昨日の記事は忘れる。明日になれば、今日の情報は忘却の彼方へ。毎日毎日、その日だけの情報のみをデジタルに記憶している人間の濫造である。こうした継続性のない短絡的な人間が築いたのが、自虐的国家・日本である。
小泉政権が唱える改革が実際に断行されるなら、私は大いに支持もしよう。それに痛みが伴おうとも、痛みの後に皆が待ち望む素晴らしい糧や利益を約束できるものであれば堪えもしよう。ところが、痛みだけで終わらず、死んでしまってはどうしようもない。パフォーマンスに明け暮れる小泉政権が、田中外相の茶番劇に脆さを隠されて、このまま続くこととなれば、世界恐慌の引き金に手をかける恐れすらある。
公約の国債発行も30兆円枠に固執するのではなく、どのように配分するかに腐心すべきである。一方、資産デフレは一般のサラリーマンにとって歓迎という説もあるようだが、ほとんどのサラリーマンは今や住宅ローンとセットで資産を持っており、まだ借家に甘んじている人が給料が減らずに物価だけが下がれば歓迎すべきかもしれないが、商品価格が下がれば会社の利益が落ち、そのために会社は合理化をして人件費の圧縮に走る。給料を下げられないとしたら、人員をカットして一人当りの生産性を上げるしかない。その結果、失業率は上がり、消費は落ち込む悪循環である。しかも、資産デフレは前述したように、サラリーマンの所有する不動産の資産価値をも減価させる。
つまり、「インフレは困る、デフレはいい」という論法は成り立たないわけだ。むしろ、インフレよりデフレのほうが所有資産を劣化させて売りたくてもお金を注ぎ込まなければ売れない負債とセットで資産を持っている人を直撃する。インフレは広く浅く負担を強いるが、デフレは偏った層に辛い負担を強いるのを見逃せない。資産デフレが最終局面に来てしまったこの緊急時にあって、まだ能天気に地価の下落は歓迎すべきと言っているようでは日本に明日はない。早急に、「不動産の保有と譲渡と取得の課税の大幅軽減」を断行すべきである。もはや0税率にしても、遅きに失するぐらいである。


自虐的国家からの脱却

 日本の行く末を案じて持論を訴え続けてきた私だが、21世紀のスタートの年である本年を振り返ってみれば、不良債権問題が暗雲となってたちこめたままだ。いや、ますます視界を暗くして、日本経済は前に進めぬ状態に追い込まれている。この予断を許さない深刻な状況下にあって、金融システムそのものが危ういだけでなく、米国の金融戦略によって東西冷戦時に日本が漁夫の利として貯めた1400兆円といわれる金融資産が米国に取り返されつつある状況をつくり出している。しかも、ITバブルの崩壊のつけが情報関連株価に覆い被さり、さらに米国中枢同時自爆テロの影響も重なって、世界の金融システムに揺らぎが生じ、閉塞感が日に日に広がっている。
ただ、こうした不安要因ばかりが目に付くものの、来たるべき未来は決して暗いものではない、と私は信じている。これまで莫大な資金を投下してきた光ファイバー等のIT関連投資が、この先必ずや活かされ、ブロードバンド時代の到来を予感させるからだ。その恩恵は計り知れないものとなろう。
2002年、景気は大底を打ち、2003年から2004年にかけて世界景気は反転上昇すると私は予測する。そのためには、日本が誤りのない政策を推進することが不可欠である。
小泉政権に期待することは、国民受けのパフォーマンスでもなければ、改革という呪文でもない。もちろん田中外相の一人芝居でもない。早く日本のあるべき姿を描き、それを国民に示し、不良債権問題の原因とデフレスパイラルの元凶が地価の下落にあることを認め、資産デフレに歯止めをかけることに全力を注ぐべきだと言いたい。



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