2001年 12月号


実害よりも大きい風評被害

 米軍の特殊部隊が地上戦を開始し、今やアフガニスタンは米軍の新型兵器の実験と実戦訓練の場と化した。連日の空爆に加えて、地上軍の突入はタリバンとの戦闘が終盤戦に近づいていることを物語っている。これで北部同盟を中心とする反タリバン勢力によるカブール占拠の日も近い。しかし、それでアフガンの内戦が終わるわけではない。
米国本土は今、炭疽菌騒動でパニックをきたしている。フロリダ州のアメリカン・メディア社に郵便物で送り付けられた炭疽菌で死亡者が発生して以来、ニューヨーク、ワシントンDCなどにも次々と炭疽菌被害が拡大。米国の人々を恐怖の渦に巻き込んでいる。こうした一連の炭疽菌感染もまた、ビンラディンの報復テロではないかとマスコミを騒がせているが、私には今回の騒動はビンラディンとは直接関係ないと思われる。どうも生物化学兵器に詳しい同一人物が引き起こした愉快犯の匂いがする。
なぜなら、炭疽菌そのものは人から人へは感染せず、今回の炭疽菌の種類は感染しても抗生物質を投与すれば治療が可能なものだからである。死亡者が出たのは、当初炭疽菌の感染なのか分からずに適切な治療が遅れたことが原因である。そして今回の事件のターゲットがマスコミならびにワシントンDCの議会関係者に集中していることからみても、炭疽菌感染を大々的に取り上げて大騒動に仕立上げるマスコミを直撃して、風評被害の拡大を狙った可能性が強い。
狂信的なイスラム原理主義者であるビンラディンが関与しているならば、もっと実害の多い大量の炭疽菌を地下鉄でばら撒くとか、あるいは海底トンネルでの車爆弾テロで大量殺戮を企てる。実際、狂信的オウムは生物兵器として培養した炭疽菌が無害化されたものとは知らずに、何千人もの人の感染殺害を狙ってビルの屋上の煙突から大々的に噴霧したし、地下鉄サリン事件では化学兵器として開発したサリンの入ったビニール袋を傘の先で破るという稚拙な手段であったため、十数人の死亡で済んだわけだが、これも爆発を伴う大々的散布方法であれば、数千人の死亡者を出していてもおかしくないテロだった。この狂信者による衝撃的なテロ事件で最も震撼したのは日本より米国であったと言われる。そう考えれば、米国政府が今回の炭疽菌テロがビンラディンが関連していると本気で考えているかは疑問である。
一方、風評被害のほうは愉快犯が目論んだ通りとなっている。米国民が皆、郵便物や白い粉、宅配荷物に恐れ慄おののくようになったからだ。こうした風評被害の拡大をみるに付け、今回の自爆テロによって引き起こされた実際の被害にも劣らぬパニックぶり、風評被害の甚大さに驚かされる。その最たる被害が、世界の経済活動の停滞である。
一方、日本での狂牛病騒動もしかりだ。一人の感染患者もいないのにマスコミが大騒ぎし、それにつられて政府も右往左往し、誰も牛肉を買わない。これもかつて英国で大々的に狂牛病が報じられた折、対岸の火事とばかり傍観していた当時の行政当局の怠慢のつけである。
過度に発達しすぎたマスメディアは人々に幸せをもたらす一方で、風評被害という形で不安を煽あおりたてる。そして、何か起こると大騒ぎするものの、すぐに忘れてしまうマスコミの体質も見逃せない。こうしたマスコミの扇情的な報道による出来事だけに目を奪われていて、その大騒ぎの陰で進行している大事を看過してしまうことが一番怖い。


看過しがちな世界経済の失速

 実際、炭疽菌や狂牛病などよりも、毎年何万人も死ぬ交通事故死者や自殺者、犯罪被害者の方が何千倍も多い現実を考えると、今最も注視しなければならないことは、今、世界の景気が失速して、大恐慌前夜の様相を呈していることである。この世界恐慌の引き鉄を日本が引いてはならない。今回の米国中枢同時テロの影響で米国の株価が下落したように報道されてはいるが、高原相場の米国の株価はテロがなかったとしても、ITバブルの崩壊で一万ドルを割り、八〜七千ドル台まで落ち込む恐れは十分予測されていた。だから、今の米国の株価下落だけでは世界恐慌の引き鉄とはならない。
しかし、日本の場合はそうとは言えない。世界の資金の60%以上を保有しているとされる日本が、このまま地価と株価が下落し続けば、不良債権はますます増大し、金融システムが崩壊して、企業の連鎖倒産が続出しよう。とくに、金融、ゼネコン、流通の分野はズタズタになるやもしれない。痛みに耐えてなどと言っていないで、とにかく今の資産デフレに一刻も早く歯止めを掛けねばならない。
不良債権発生の原因は、スパイラルにいつまでも続く地価の下落であって、それが株価の下落に繋がる。またその結果として、企業が金融機関に借り入れの担保として出した不動産が担保割れして不良債権化したのである。そう理詰めで考えれば、これ以上の地価の下落を許さないための手立てを早急に講じなければならないことは言うまでもない。


一極支配体制への反動

 米国は首謀者がビンラディンであるとして報復攻撃をしようとしているが、今回の組織的かつ長期計画的なテロ行為からしても、ビンラディンの意志と財力だけでは不可能と思わざるを得ない。それは、そうした行為を支持する土壌というものがなければできない。中東のイスラム教徒、とくにイスラム法に基づく社会を築こうというイスラム原理主義者の中には西洋キリスト教文明と共存を望まない人が非常に多く存在している。今回のテロはそうした人たちのネットワークとその影の強大な勢力の力が働いて行われたテロであり根は深く、広いのである。
このような姿を見せない新しい敵に対して、米国はいらつき、予備役を徴集したり空母を派遣して各国に協力を求めているが、このままでは「大山鳴動してネズミ1匹」の感がある。その結果、ブッシュ氏の支持率が激減し再選不可とならないように不況の兆しが忍び寄る米国で景気回復を図るためにも、敵をつくり出してでも、大々的に長期に亘って反撃戦を行い、ビンラディンを殺害もしくは逮捕しても、繰り返し攻撃しその背後の勢力(タリバン・イラク)とそのネットワークの根絶を目指す必要がある。しかし正規軍をもってゲリラ戦を勝ち抜いた例はなく、このようなテロ攻撃が今後も頻発し、米国はマスコミ・世論との戦いとなる。基本的にはイスラム世界の鬱積した不満が解消しない限り、際限なくテロは発生する。ビンラディンを排除し、アフガニスタンのタリバン支配を打破するとともに、今のシャロン政権が行っている「目には目を歯には歯を」と言われる報復合戦の繰り返しを止め、和解・話し合いのテーブルにイスラエルを導いていかないと、テロはなくならないだろう。
一方今は、世界は米国の怒りの前にひれ伏した観がある。リビアもイランもいち早くテロに加担していないと表明。タリバンと親しいパキスタンでさえ後方支援の艦艇の寄港を認めたり、領空の通過権を与えたりと、至れり尽くせりである。パキスタンにすれば、自爆テロのターゲットにされる危険性に気を揉みながらも、米国の逆鱗に触れたくないということだろう。さらに、この際昨年の原爆実験で国交が途絶えた米国等との関係修復を図ろうとする意図が見え見えである。
日本も湾岸戦争時のように、巨額の資金を提供しながら、どこからも感謝されなかった苦い経験を活かして、今度こそは、日本人が二十数名も犠牲になったわけで、これは米国に対する攻撃と同時に日本に対する攻撃でもあると見なし、自衛権を発動して米軍と協調して自衛隊を派遣すべきだ。お金だけ取られて評価されないという轍を再び踏んではならない。


税制改革が消費喚起の起爆剤

 私が毎回提言していることだが、不動産の流通にかかる税を一定期間ゼロにするくらい大胆な不動産政策減税を断行すべきだ。不動産資産をこれ以上目減りさせないためにも、不動産の取得時に、その評価額に応じてかかる登録免許税と取得税を定額の手数料制にするなどして、誰も買わないで皆が売りたがっている不動産の購入と所有にメリットを与えるべきで、保有にかかる固定資産税も半減させるとともに日影や斜線規制、不動産諸規制などを緩和して、もっと不動産の利用価値を引き上げるべきだ。しかし、これだけでは景気のマイナスを抑えるだけでプラスにはならない。併せて消費と需要を喚起する施策が必要である。
企業の需要を喚起させる競争力を付けるには、建物資産や産業機械・事務機などの諸設備の償却期間を短縮する加速度償却の実施が必要である。今のような建物の償却期間が50年の定額償却は実態と大きく異なっている。建物償却はせいぜい15〜20年間程度の定率償却制にすべきだし、機械諸設備・事務機は単年度償却とすべきだ。個人消費を喚起するには、相続税は原則ゼロとし、所得税も最高税率30%程度に大幅減税すべきである。さらに、法人と個人の税制の格差を撤廃し、社会主義国家の思想に近いと悪評の租税特別措置法を撤廃し大幅減税するくらいの「税制の抜本改革」が急務だ。個人の小規模宅地に対する課税は小さいが、一定規模を超えた一般宅地に対しては、その6倍ものものすごい税率を押し付けている。
このように日本の税制は絶えず平等化を求める累進重課税であるため、これが戦後のインフレでものすごく重課税となった。これのガス抜きとして租税特別措置法等で誤魔化しを重ねるうちに、ますますややこしく複雑多岐に亘り細分化されてきて専門家でも分からなくなってきた。また、法人と個人における税制も違いすぎる。もっと簡素化を図るべきだ。今、世界のどこに行っても売上税を5%しかとっていない国はない。逆に、日本ほど高い所得・資産課税の国も少ない。不動産であるとして取得時に納税させられる建物が、一方では消費財として二重に消費税を掛けられるのは憲法違反であると言いたい。すぐに建物にかかる消費税を廃止すべきである。こうした歪いびつな税体系が消費の意欲を萎なえさせる原因となっている。
消費の喚起は金持ちの人の購買意欲をそそることにある。日本の一千四百兆円とも言われる金融資産を保有しているのは主にシルバー世代である。それは彼らが戦後の復興期に与えられた平和の中で、漁夫の利を得て、額に汗して蓄えた資産である。この資産は高累進相続・贈与税により自分の孫子に渡らず、またゼロに近い金利では運用益も得られず、さりとて地価と株価の下落による逆資産効果からくる不安から消費してエンジョイすることも出来ない。
また、残念ながら日本の場合、アメリカンドリームのような成功者を賞賛する習慣がなく、人生をエンジョイしようとすることをやっかむ風潮が強い。この辺を改めて、気兼ねなく豊かさを実感できる社会づくりをしていくためには、絶えず「やっかみ」と「ひがみ」の記事を掲載して、悪平等を強いるマスコミを正していくことが肝要である。


建設国債でインフラの整備を

 日本はまだ本当の意味での資本主義市場経済社会にはなっていないのではなかろうか。あまりにも不必要な規制と、官僚支配の領域の多さ、さらには民営化という名のもとの官僚天下り先の確保、多すぎる公社・公団ならびにその関係会社のせいでの高物価・非効率社会が21世紀となった今もしぶとく続いている。こうした歪な社会構造を大胆に変革すべきだ。小泉政権が支持率の高い今やるべきことは、30兆円以下に国債発行額を抑えるといった総額の抑制ではなく、その国債の使い途である。孫子の代にも使えるインフラの整備に使うのであれば、30兆円にこだわる必要はない。
私は、大深度地下空間を公共化し、その開発で需要をつくり出して地下60メートルに一大交通網を造り、東京などの交通渋滞を解消させ、交通アクセスの整備と物流コストの軽減を計るための国債であれば大いに使うべきだと考える。物流コストが大幅に下がれば、自ずと景気は活性化する。併せて、国家は国民の生命と財産の安全に責任を持つ対価として税を徴収しているという原則に立ち返って、毎日財産が目減りしている現行の資産デフレに一刻も早く歯止めを掛ける責務がある。同時に、日本国民として国家と民族に誇りを持てる教育と自らの国に自信が持てる国づくりに本気に取り組む姿勢を小泉総理は示してほしい。
そして、今世紀を繁栄の世紀にしていく責任がある。そのためには、今ある不良債権の処理だけではなく、不良債権をこれ以上発生させないことに重点を置き、これ以上の地価の下落に歯止めを掛けるとともに、眠れる金融資産を消費の表舞台に引き出すことがなにより肝心である。日本発世界恐慌の引き鉄を断じて引かせないことが、小泉総理に課せられた最重要課題である。



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