実害よりも大きい風評被害
米軍の特殊部隊が地上戦を開始し、今やアフガニスタンは米軍の新型兵器の実験と実戦訓練の場と化した。連日の空爆に加えて、地上軍の突入はタリバンとの戦闘が終盤戦に近づいていることを物語っている。これで北部同盟を中心とする反タリバン勢力によるカブール占拠の日も近い。しかし、それでアフガンの内戦が終わるわけではない。
米国本土は今、炭疽菌騒動でパニックをきたしている。フロリダ州のアメリカン・メディア社に郵便物で送り付けられた炭疽菌で死亡者が発生して以来、ニューヨーク、ワシントンDCなどにも次々と炭疽菌被害が拡大。米国の人々を恐怖の渦に巻き込んでいる。こうした一連の炭疽菌感染もまた、ビンラディンの報復テロではないかとマスコミを騒がせているが、私には今回の騒動はビンラディンとは直接関係ないと思われる。どうも生物化学兵器に詳しい同一人物が引き起こした愉快犯の匂いがする。
なぜなら、炭疽菌そのものは人から人へは感染せず、今回の炭疽菌の種類は感染しても抗生物質を投与すれば治療が可能なものだからである。死亡者が出たのは、当初炭疽菌の感染なのか分からずに適切な治療が遅れたことが原因である。そして今回の事件のターゲットがマスコミならびにワシントンDCの議会関係者に集中していることからみても、炭疽菌感染を大々的に取り上げて大騒動に仕立上げるマスコミを直撃して、風評被害の拡大を狙った可能性が強い。
狂信的なイスラム原理主義者であるビンラディンが関与しているならば、もっと実害の多い大量の炭疽菌を地下鉄でばら撒くとか、あるいは海底トンネルでの車爆弾テロで大量殺戮を企てる。実際、狂信的オウムは生物兵器として培養した炭疽菌が無害化されたものとは知らずに、何千人もの人の感染殺害を狙ってビルの屋上の煙突から大々的に噴霧したし、地下鉄サリン事件では化学兵器として開発したサリンの入ったビニール袋を傘の先で破るという稚拙な手段であったため、十数人の死亡で済んだわけだが、これも爆発を伴う大々的散布方法であれば、数千人の死亡者を出していてもおかしくないテロだった。この狂信者による衝撃的なテロ事件で最も震撼したのは日本より米国であったと言われる。そう考えれば、米国政府が今回の炭疽菌テロがビンラディンが関連していると本気で考えているかは疑問である。
一方、風評被害のほうは愉快犯が目論んだ通りとなっている。米国民が皆、郵便物や白い粉、宅配荷物に恐れ慄おののくようになったからだ。こうした風評被害の拡大をみるに付け、今回の自爆テロによって引き起こされた実際の被害にも劣らぬパニックぶり、風評被害の甚大さに驚かされる。その最たる被害が、世界の経済活動の停滞である。
一方、日本での狂牛病騒動もしかりだ。一人の感染患者もいないのにマスコミが大騒ぎし、それにつられて政府も右往左往し、誰も牛肉を買わない。これもかつて英国で大々的に狂牛病が報じられた折、対岸の火事とばかり傍観していた当時の行政当局の怠慢のつけである。
過度に発達しすぎたマスメディアは人々に幸せをもたらす一方で、風評被害という形で不安を煽あおりたてる。そして、何か起こると大騒ぎするものの、すぐに忘れてしまうマスコミの体質も見逃せない。こうしたマスコミの扇情的な報道による出来事だけに目を奪われていて、その大騒ぎの陰で進行している大事を看過してしまうことが一番怖い。
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