2001年 11月号


米国同時多発テロの衝撃

 先日、ロシアのアエロフロートでモスクワ入りし、その後サンクトペテルブルグからブカレスト、ベルリンへと、イリューシンとツボレフというソ連時代に製造した古い航空機に搭乗した。これがボーイングであれば、少しは安心なのだがと不安を感じながら、パリを廻り欧州4カ国の旅から帰国した直後に、ボーイングをハイジャックしてワールドトレード・センターとペンタゴンへの同時自爆テロが行われた。ボーイング767がビルに突っ込むリアルタイムの映像はバーチャルリアリティの世界を越えるものであり、今なお、世界を震撼させている。
50年近くに亘り世界を2つの勢力圏にわけて攻めぎあいを続けたイデオロギーの戦いであった東西冷戦はハイテク戦と情報戦に勝る米国の勝利で終結して、いよいよ米国一極支配体制が確立されたかに見えた矢先、最もローテクのカッターナイフで航空機をハイジャックして、誘導弾に変えた自爆テロにより、米国の軍事的中枢と経済的中枢、特に世界の情報金融の中枢部に想像を絶する痛打を浴びせた。これは、西欧文明の世界化とも言えるアメリカ的グローバリズムに対する攻撃とも言える。
今回、テロの標的となったワールドトレード・センターには私も何度か訪れたことがあり、94年に丁度爆破の1周年記念の日にも訪れたが、メモリアルデーということもあって警戒が非常に厳しく、2度3度にわたって金属探知機による検査とボディチェックを受け、さらに身分証明書の提示も求められたという記憶が今も鮮明に残っている。
米国は金融と情報、法律で稼ぐ国といってもよく、その米国を支配しているのはWASP(ホワイト・アングロサクソン・ピューリタン)と言われているが、私はその米国の中枢部分を実際に支配しているのはユダヤ人であると思う。なぜなら、このユダヤ人こそが、金融と情報、そして法律を実効支配しているからである。そういう背景を持つ米国にあって、ワールドトレード・センタービルはウォール街に近い金融の心臓部。しかも、ビルのフロアを最も利用していたのがモルガン・スタンレーとなれば、その名の通りこれはユダヤ資本であり、その米国金融の中枢部をめがけて行われた自爆テロの理由も頷けよう。
今回のテロは時間をかけて用意周到に計画されたものだが、ビルの崩壊により、そのダメージはテロリストの予想を上回るものとなった。6千人を超える犠牲者が推測される中、これは真珠湾攻撃の再来と報道されているが、真珠湾攻撃はだまし討ちというよりむしろ米国によって仕組まれたと言うべきで、石原慎太郎東京都知事は、これは「真珠湾ではない。原爆に匹敵する無差別殺戮である」と言ったように、真珠湾攻撃は軍事施設と軍人に限られていたが、今回は米国金融資本の中枢部と一般の市民が標的とされた点ではまったく異質なものであり、米国の憤怒は「怒り心頭に発する」状況と言える。報復攻撃に議会、国民がこぞって賛成し、テロリストを一気に殲滅せんとする機運に満ちている。


2大文明の衝突

 反撃戦に向けて米国の素早い反応を見るに付け、思い起こすのは湾岸戦争である。当時の大統領はブッシュ現大統領の父。大掛かりな態勢で臨んだ結果、クウェートに進駐したイラク軍を追っ払い、それを機に念願であった中東・サウジアラビアに米軍を駐屯させることに成功。中東の原油安定供給の礎を造った点では大きな成果があった。
しかし、このことでイスラム原理主義者との軋轢と対立を生むこととなった。今回のテロの首謀者ウサマ・ビンラディンも、湾岸戦争で米国がサウジアラビアに軍隊を進駐させたことに異を唱え、神聖な場所、聖地サウジアラビアに異教徒である米国が我が物顔で居座るのが許せないというのが犯行の動機と言われている。かつてソ連がアフガニスタンに侵攻した際に、西側の一員として代理戦争を戦わせるために米国が軍事援助し、育成したイスラムゲリラ。それが冷戦終結と湾岸戦争の結果、サウジアラビアに駐屯し続ける米国に反発し中東から追い払うために今回の同時テロが敢行されたとしたら、なんとも皮肉な結果である。
湾岸戦争後の民主党のクリントン政権は、グローバル主義を唱え米国の世界一極支配体制を目指して、金融(国際化)と情報(通信・放送の規制緩和)、法律(特許権・意匠登録・会計基準)のグローバル化を図り、ユダヤに有利な政策をとり、中東問題においても、パレスチナとイスラエルの和解の交渉を進めようとかなりの努力を払ったものの、ブッシュ政権誕生により環境は一変した。京都議定書・核実験全面禁止条約・ミサイル防衛構想など、米国第一主義に傾斜しているブッシュ政権は、かつてのモンロー主義のように、世界と関わらない外交姿勢が顕著であり、中東和平の取り組みにも消極的で、90年代に情報金融のグローバリズムによって巨万の富を得て、一極支配体制が確立されたとの自信から来る意識が目に付いていた。しかし、今回のテロを機に米国は経済や情報、人の自由な移動というグローバル化の結果、テロもまたハイテク・グローバル化するという現実を知らされた。
他方、イスラエルは4度に亘る中東戦争を勝ち抜き核武装も成し遂げ、アラブ側からの第5次中東戦争を仕掛けられる恐れが非現実化した今日、タカ派のシャロン政権が誕生し、話し合いで解決するより力でねじ伏せる政策が打ち出され、鬱積したパレスチナ人の怒りの自爆テロに対しても過激に報復反撃し、パレスチナの指導者をターゲットにロケット弾を打ち込んで暗殺を謀るなど、和平交渉の光明をかき消す行為を繰り返し、中東情勢は悪化の一途を辿っていた。
そういう状況下にあって、イスラエルの力で支配する中東政策をなんら気にとめることもなく、米国は内向きに物事を進め、一極支配体制への道を遮二無二に進もうとして、世界の様々な問題よりも米国の国益を一番とする共和党の伝統的政策実施により、中東情勢は混乱を極め、パレスチナ問題に端を発するイスラム世界の不満はますます高まり続けた。そして今回の自爆テロは、そうした鬱積した不満が生んだ凶行といっても過言ではない。


一極支配体制への反動

 米国は首謀者がビンラディンであるとして報復攻撃をしようとしているが、今回の組織的かつ長期計画的なテロ行為からしても、ビンラディンの意志と財力だけでは不可能と思わざるを得ない。それは、そうした行為を支持する土壌というものがなければできない。中東のイスラム教徒、とくにイスラム法に基づく社会を築こうというイスラム原理主義者の中には西洋キリスト教文明と共存を望まない人が非常に多く存在している。今回のテロはそうした人たちのネットワークとその影の強大な勢力の力が働いて行われたテロであり根は深く、広いのである。
このような姿を見せない新しい敵に対して、米国はいらつき、予備役を徴集したり空母を派遣して各国に協力を求めているが、このままでは「大山鳴動してネズミ1匹」の感がある。その結果、ブッシュ氏の支持率が激減し再選不可とならないように不況の兆しが忍び寄る米国で景気回復を図るためにも、敵をつくり出してでも、大々的に長期に亘って反撃戦を行い、ビンラディンを殺害もしくは逮捕しても、繰り返し攻撃しその背後の勢力(タリバン・イラク)とそのネットワークの根絶を目指す必要がある。しかし正規軍をもってゲリラ戦を勝ち抜いた例はなく、このようなテロ攻撃が今後も頻発し、米国はマスコミ・世論との戦いとなる。基本的にはイスラム世界の鬱積した不満が解消しない限り、際限なくテロは発生する。ビンラディンを排除し、アフガニスタンのタリバン支配を打破するとともに、今のシャロン政権が行っている「目には目を歯には歯を」と言われる報復合戦の繰り返しを止め、和解・話し合いのテーブルにイスラエルを導いていかないと、テロはなくならないだろう。
一方今は、世界は米国の怒りの前にひれ伏した観がある。リビアもイランもいち早くテロに加担していないと表明。タリバンと親しいパキスタンでさえ後方支援の艦艇の寄港を認めたり、領空の通過権を与えたりと、至れり尽くせりである。パキスタンにすれば、自爆テロのターゲットにされる危険性に気を揉みながらも、米国の逆鱗に触れたくないということだろう。さらに、この際昨年の原爆実験で国交が途絶えた米国等との関係修復を図ろうとする意図が見え見えである。
日本も湾岸戦争時のように、巨額の資金を提供しながら、どこからも感謝されなかった苦い経験を活かして、今度こそは、日本人が二十数名も犠牲になったわけで、これは米国に対する攻撃と同時に日本に対する攻撃でもあると見なし、自衛権を発動して米軍と協調して自衛隊を派遣すべきだ。お金だけ取られて評価されないという轍を再び踏んではならない。


世界大恐慌の引金

 今回のテロがきっかけとなって、世界の株価が急落し、失業者が増大。消費不振からデフレ現象に歯止めが掛からなくなり、既に世界大恐慌の引き金を引いてしまったのではという危惧が広がっている。米国の株価は8千ドル台に突入、日本も1万円を切って9千円台に低迷している。早く適切な手立てを講じなければいけない。毎回、この誌上で述べているように、日本の場合、株価の暴落を防ぐには第一に地価の下落に歯止めを掛けなければならない。それには不動産の流通・保有に掛かる税の大幅減税と不動産の諸規制の緩和なくしては、地価の安定、株価の上昇は望めないのである。
「不朽の自由」作戦と名付けられたその反撃戦は空爆とトマホーク攻撃を主体に、ビンラディン氏が潜伏していると情報があった場所を虱潰しに特殊部隊を派遣して殲滅、引き揚げるという「ヒットエンドラン」攻撃を行うと思われる。ベトナム戦争のように駐屯して戦うという愚は繰り返さないであろう。が、しかしこれは戦争であり、当然出血は伴う。これにマスコミ・世論はいつまで我慢できるかである。同時に、湾岸戦争の結果支持率が急騰したにも拘わらず再選を果たせなかった父の悲哀も忘れていないだろう。今、ブッシュ大統領の頭を過るのは再選である。その再選を確実なものにするためにも、慎重に支持率と世論を背景にビンラディンの身柄を生死に関わらず確保すると共に、テロ組織とその背後の勢力全体を壊滅に追い込むことと、今回のテロで落ち込んだ景気を一日も早く回復させることが求められている。世界はこのテロをきっかけにパンドラの箱をひっくり返したように、化学兵器のテロや核兵器のテロまでも視野に入れた未曾有のテロリズムにわななかねばならなくなるだろう。
その結果を恐れて、米国がますます保守化傾向と内向き傾向に突き進まないためにも、これは世界の民主主義に対する挑戦と捉えて、日本もしっかりと米国を支え、いつまでもおんぶに抱っこで平和を唱えれば叶うという平和ボケから脱却して、占領下で与えられた憲法を後生大事にしているのではなく「自らの平和は自らの力で守り、連帯して世界平和に貢献していく」ことを本気で考えていかなければならない。
えひめ丸の事故で大騒ぎした日本のマスコミが、女性を家畜並に扱い犠牲を強いるイスラム原理主義者と米国とを平等に扱おうとして、今回のテロで犠牲になった日本人がいることも忘れてばかばかしい報道をくり返していてはいけない。日本は自衛権を発動して、世界の民主主義の国々と協調して反撃戦に参加すべきである。



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