2001年 9月号


大深度地下空間の公共化

 先日、都内某所へと出掛けた。三連休の前日ということもあってたいへんな渋滞で、どうにか高速道路に入ったものの、都心の西麻布までわずか2〜30kmたらずの距離を走るのに2時間近くもかかってしまった。首都圏の渋滞によるロスの大きさにはいつもながら辟易させられる。
この道路渋滞で思い起こしたのが、最近何かと騒がれている道路特定財源の一般財源化問題と、ムダな公共工事への批判である。造っても壊すまで赤字の垂れ流しで、利用料ではその維持費すら稼ぎ出せず2〜30年もすれば粗大ゴミとして捨てられる各種施設を全国にばら撒くように造っている。まさにこれは、地域の失業対策と地域振興の名目のもとに、公共工事の金で票を買うといってもよい長年に亘る土建政治がもたらす弊害そのものと言ってよい。
なぜ、大都市圏ではなく、地方で次々と公共施設が野放図に建てられるかと言えば、同じ予算を消化するに当たって、地方のほうが数倍旨味があるからである。予算総額が同じならば、土地代が安いほど建築費に資金が投入できる。つまり、100億円の予算で、大都市圏なら8〜9割が土地代で消え1〜2割しか工事費としては残らないが、地方なら土地代が1〜2割で工事費が8〜9割となる。よって、地価の安い地方で公共工事を行うほうが土建会社にとっては潤うこととなる。道路を造り、ドームを造り、ダムを造り、その工事が国民に有益かなどは念頭になく、どれだけ工事に税金を投入し、その結果、どれだけの票を集められるかが政治家の一大関心事であり、それが今の腐敗した政治システムの根底を成しているのである。
こうした弊害が小泉政権で糾弾され、公共工事を削減し、道路特定目的税の一般財源化を促進せよ、という機運の盛り上がりとなっているのだろうが、私はむしろ今こそ高速交通物流・情報ネットワークの確立を図るべき時ではないかと思う。用地の買収に反対者が一人でもいれば工事にかかれない現在の在り方を改めて、今や発想の大転換を図り、100%工事費の大深度地下空間の活用はどうであろうか。法を改正して、地下60m以下の空間を地権者の権利の及ばない公共空間として有効利用し、21世紀の街づくりを考えてみたいものである。
地上部は太陽と緑とせせらぎに満ちた自然で快適な暮らしの空間にする。地下部は地下鉄とともに電気・ガス・光ファイバー・上下水道はもとより、交通・物流のための循環道路・横断道路・地下駐車場を完備、貯水槽や調整池、戦略的備蓄庫、廃棄物処理施設も設ける。こうした孫子の代にまで使える有意義な施設の公共工事を、談合を廃して競争原理のもと、大々的に行えば、需要が創出され、雇用が生まれ、失業対策ともなり、景気を刺激することにもなるのではなかろうか。


景気回復なくして構造改革なし

 小泉総理は、「構造改革なくして景気回復なし」と公言し、来年度国債発行額を30兆円以下に抑えると公約し、痛みを伴っても不良債権処理を急がなければならない、そのための倒産や失業者の一時的増加もやむなしと、その意気込みは素晴らしい。が、本当は「景気回復なくして構造改革なし」であり、ここにきての株価の暴落は小泉政権の高支持率の行方に暗雲をもたらすものである。株価が日経平均12000円を割った。米国のIT関連株暴落の影響もあるが、バブル崩壊後の最安値に迫りつつある。米国株価もIT株暴落に引きずられて大暴落直前の様相を呈しており、世界同時株安、世界恐慌へと進むのではないかという懸念が高まっている。
先月号のこのエッセイでも述べたように、この異常ともいえる高支持率は参院選まではともかく、いつまでも続かない。ゆえに、支持率の高いうちに衆参同日選挙を断行して、自民党単独政権に復帰すべきだと提言したわけだが、小泉総理は敢えて解散権は抵抗勢力が抵抗し始めた時の切り札として温存しておきたいという。私は、戦は勝てるうちにするのが鉄則ということからしても、彼の判断は間違えていると言わざるを得ない。
小泉総理は、靖国神社参拝など戦後のタブーに果敢にチャレンジしようとしている。これはこれで評価すべきだが、一方、景気が失速してきている今、不良債権の実態も知らずに3年以内に処理をすべきと言っている。かつて地価の高騰期に、本来一斉放出して冷やし玉とすべき国鉄清算事業団用地などの競売を取りやめさせ、そして株安の今、銀行の持ち合い株の解消を迫り、売りを急がせている。まさに経済の原則の反対を指導している日本の金融当局の常識を疑う。現在の不況の元凶は地価の下落にあることは明らかなのに、地価下落の対策を10年間もおざなりにしたままで、低金利と緊急経済対策と称する従来型の公共投資等で、景気浮揚を図ろうとして失敗し、国債ばかりを膨らませてしまった。そして更に株価と地価の下落は進行し、これが銀行の自己資本を目減りさせ、貸し渋り不況に拍車がかかり、倒産が増え、また不良債権が増大し、さらなる銀行への公的資金の導入が必要となり、これを賄うために発行する国債を、リスクをとらない金融機関は購入に走る。国による債権を国に支配された金融機関が購入することで、債権バブルを積み上げて、このバブルの崩壊による金融システム破綻がスーパーインフレ大不況への道を進む。
日本は世界経済に責任を持つ立場からしても、今の資産デフレ不況から脱する大々的な需要の創出を行わなければならない。そのためには、前述したように、長年に亘って続けてきた全国均一の箱もの公共工事を見直して、法を改正し、全国の主要都市の大深度地下空間の公共化を図る必要がある。今までの縦割り行政では、港や空港は運輸省、道路は建設省と、港湾施設、空港、鉄道駅、高速道路はバラバラに造られ繋がらず、アクセスは不便の極みである。この結果、物流コストは増大し、道路が渋滞するのは当然といえよう。せっかく国土交通省として一本化されたのを機に、羽田空港沖に巨大国際ハブ空港を建設すること、そしてすべての空港と港、鉄道駅、高速道路の連結ネットワーク化を図り、都市部における二車線同士の高速道路が交わるところは少なくとも四車線に、その他でも少なくとも三車線にして物流スピードを上げるべきだ。
夏の炎天下に重量車両が通過するとできる轍などで、毎年舗装を繰り返すように造る軟弱な道路。その轍に雨が溜まり車がスリップして交通事故を招く。しかもその事故は運転手の運転ミスやスピード違反として処理されてしまう。スリップしてガードレールにぶつかれば、車の修理代よりガードレールの修理代のほうが高くつく。その補修工事も、事故車の回収もすべて道路公団の指定業者じゃないとできないというのも納得できない。文句はまだまだある。煩雑さと厳しすぎて守りきれない道路標識と交通規制、万年渋滞で20kmも走れば必ずある工事箇所とオービス、ねずみ取りと覆面パトカーの高速道路や、開かずの踏み切りや、信号渋滞に閉口するのは私だけではないはずだ。
以前のエッセイにも書いたが、阪神大震災が発生した際、高速道路の支柱が折れ曲がった映像が全国に流れた。その反響は大きかったが、あの被害を見て投資とリターンの確率計算もせずに、これがビジネスになると慌てて全国の高速道路の支柱に鉄板を巻くなどの処置が行われた。当時から役立つとはとても思えなかったそうした補強工事こそ、ムダな需要を創り出して、そこに利益を生み出し、天下り先を確保していくことに余念がない官僚の発想そのものであることを改めて痛感する。
官僚の、官僚による、官僚のための国、それがいまの日本の姿である。昨今の外務官僚と田中外相の騒動を見ても明らかなように、日本を支配している気でいるのは官僚である。日本の総理や大臣がコロコロ変わろうとも、官僚がしっかりしているから大丈夫といった戯言を公言して憚らないのが選挙の洗礼を受けない偏差値エリートの官僚である。確かに戦後の復興期には官僚機構はそれなりに機能していたかもしれないが、現在の日本をこのようにダメにしたのは、省益しか考えない官僚だと私は断言できる。冷戦終結とともに米国は国家戦略を駆使して、日本経済を弱体化に追い込み、日本の優良資産を買い叩き、冷戦時に漁夫の利として蓄えられた1400兆円の金融資産を取り戻そうと躍起になっている。
そうした中にあって、今の日本は政治家も官僚も国家戦略はおろか自国の国益すら考えることもなく政府開発援助(ODA)を垂れ流し、教科書一つ作るのにも中国や韓国に気兼ねして修正を迫られ、謝り続ける情けない国に成り下がってしまっている。日本は独立国なのか、と本当に疑いたくもなる。これも外務官僚が内政も外交も国益も考えず、省益と自らの天下り先のみを考えて、自らを特権階級と位置づけ、機密費は使い放題で、外交案件は相手方の言いなりに適当に妥協して処理してきた結果であると言ってよい。


先端技術の研究に重点予算の配分を

 日本の強みは基礎技術を応用しての物づくりである。冷戦終結後、東側の低賃金労働力が垣根を取り外されて西側に流れ、また日本企業の工場が低賃金の中国などに移転したこともあり、その強みが損なわれつつあることは否定できない。しかし、日本はその強みの元である基礎技術の研究に力を注ぎ、これからさらに応用技術を磨き、本当の輝きを放てるようにしていかなければならない。いまの時代は低賃金労働力の導入によるデフレだが、これからはハイテクを駆使して機械が機械を作り、その機械が商品を作る時代になる。今からは労働賃金とは関係のない物づくりの時代となり、物の値段はどんどん安くなる。その一方、芸術やスポーツ、娯楽などのソフトを愉しむ時代が来る。美味しい物を食べ、いい音楽を聴き、絵画や彫刻、伝統芸能などを楽しみ、いい映画を観、ゲームで遊ぶ。そんなことが重要視される。そういう観点からすれば、日本には観光・文化・芸術立国としての道も残されている。そして、そのためにはどこからでも、誰でも、気軽にやってきたり、物を持ってきやすいシステムが求められる。
私は提言する。日本が生き残る道は大幅(資産・所得)減税で、中産階級や金融・年金生活者が安心してお金を使い、人生を楽しむようにするとともに、芸術と観光と文化に力を入れることである。そして、物づくりの最先端を極めるナノテク、バイオテクにおいて世界に負けない基礎技術の研究に予算を重点配分して、国家を挙げて取り組むことである。そうすれば、21世紀においても、経済大国としての立場を堅持し続けるに違いない。今、小泉改革が歩き出そうとする中、株価の暴落を引き金に、金融システムの破綻、公的資金の再導入による銀行の国有化と、当然ではあるが、不良債権の強制処理による債務超過企業の倒産と失業者の増大、銀行の貸し渋りによる健全中小企業の破綻の激増が起きるやもしれない。
しかし、こうしたデフレ圧力を撥ね返すには、それを上回る新規雇用の創出が必要であり、先端技術の育成とともに、大深度地下空間の公共化による活用、高速情報ネットワークと高速物流システムの完備、あらゆる道路からアクセスできる高速道路の完成、港と空港と主要駅の高速ネットワーク化が不可欠であることは言うまでもない。痛みに耐えてなどと言っていないで、国債30兆円以下などと限定せずに、必要に応じてドンと発行し、日本版ニューディール政策に早急に取り組まないと、日本発世界恐慌の可能性が日々高まってきている。近頃の株価暴落を目の当たりにして、こんな不安と危惧を抱いているのは果たして私だけであろうか。



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