2001年 8月号


現下の閉塞感は資産デフレにある

 先日、ニューオータニで池口恵觀法主の主催する「恵觀の会」が開催され参加した。その会はフリートークの形式で経済や政治の見通しなどを論じ合う会で、羽田元総理や前法相の保岡国家戦略本部事務総長など国会議員5〜6人のほか、ジャーナリストや官僚、大学教授なども加わって話題は様々に及んだ。私も指名を受けて、現在の景気低迷と日本を覆う閉塞感は10年に亘ってスパイラルに続く資産デフレにあり、未だそのケアが十分になされていないことが原因であると語らせていただいた。
その経過を辿たどると、プラザ合意(85年)がもたらした円高不況の進行に歯止めをかけるべく公定歩合を5回に亘って半分の2.5%にまで引き下げた金融緩和策と、ドル買い介入による過剰流動性の増大を放置してバブルの高騰を許した当時の金融政策当局の責任も重いが、その後の一転してのバブル潰しともいうべき諸施策も見逃すこともできない。すなわち、不動産取引監視区域制度の導入(87年)や、日銀による89年5月から90年8月とわずか1年3ヵ月の間に2.5%の公定歩合を6%に棒上げ、そして大蔵省は不動産融資総量規制の発動(90年4月)と、地価は高すぎて大変だというマスコミに踊らされて、ジャーナリスト、政治家、官僚、エコノミストまでもがこぞって実際の取引で出来た地価をバブル前の水準までに戻すべきだと囃し立てて、地価暴落を誘導した。そして下り坂にアクセルを踏むが如く地価税の創設・土地譲渡益重課税制度(92年)と、大幅な3〜7倍へと固定資産税の評価替え(94年)で地価の下落を一層加速させたことが、今日の閉塞感といまだ回復の兆しを見せない景気の低迷の原因である。
本来、地価は金利程度の上昇が望ましいのに、皆で始めた地価の値下げとはいえ、ここまで値下がりしたにもかかわらず地価の下落に歯止めをかける施策(不動産の流通と保有にかかる税の減税と、不動産規制の大幅緩和)に手を付けない。
需要と供給で物の値段は決まる。みんなが欲しい時に売れば高く売れ、みんなが売りたい時に買えば安く買える。地価の高騰が世間を騒がしていた頃に、本来は冷やし玉として一気に売ればよい国鉄清算事業団用地の売出しが、競売は地価の高騰を煽るものだという経済の理論に反する報道に翻弄され売出しを中止した。
そうした環境の中で、ようやく矢継ぎ早な地価下落政策が効き始め地価が下がり始めた矢先に、今度はNHKをはじめマスコミがよってたかって地価を下落させなければいけないというキャンペーンを始めた。
地価を取引事例法で評価していた金融機関をしり目に収益還元法で評価すべきだと考えていた私は、この高騰期をチャンスと捉え、多くの賃貸用資産を高値で売り切った。そして得た多大な利益を、今度は赤字と損益通算をして節税をする必要性から緊急避難的に急速赤字の図れるジャンボ旅客機を購入し、リースすると共にハリウッドで映画の制作を始めた。これは、こうした売買で得た利益は付加価値生産によって得た利益ではなく投機の利益であるのに、社員が儲かっていると錯覚してはいけないと思ったからである。
10〜12年償却のジャンボ旅客機は、リースすれば始めの5〜6年は大幅な赤字であるが、後半は一転大幅利益に転ずる。そして今度はこの利益を本格節税すべく、償却資産のうち最も節税効果が高い資産としてホテルに投資することを決めた。
賃貸マンションやオフィスビルへの投資は建物のみであり償却期間が長い。しかしホテルの場合、内部の備品であるベッドや冷蔵庫、テレビなど、一品20万円(現在は10万円)以下のものと、開業準備経費はすべて初年度に一括償却できるというメリットがある。すなわち、バブルで得た利益を緊急避難的にジャンボ旅客機を買って赤字を作り、今度は利益が戻ってきた段階でホテルを1万室つくる事業展開をしようとしたわけである。


田原氏の論陣に異論

 そんな話を私が披露した後、その日のメインスピーカーの田原総一朗氏がやってきていよいよ講演となった。田原氏はその中で、現在の閉塞感は不良債権の処理が遅れたことに原因があるとか、小泉政権は高支持率を得ているが、これは小泉氏個人の人気であって自民党の支持には繋がらないから、今度の参議院選挙は現有の61議席の維持は難しく、50台半ばに落ち込むのではないか、と推論した。この講演後、私は指名を受けて田原氏に質問をする機会を得た。
質問は2つ。1つは、小泉氏の高い支持率が自民党の支持に結び付かず議席を減らすのなら、その議席はいったいどこの党に行くのか・・・、小泉総理が衆参同日選挙を決断すれば自民党は大勝するのではないかと。この質問には田原氏から明確な答えを得ることができなかった。
もう1つは、バブル潰しは必要であったが不良債権の処理をもっと急ぐべきだった、1993年頃に処理しておけば4、5兆円ぐらいで済んだかもしれないのに、やらなかったために今日のような悲惨な状況になったという田原氏の持論への質問であった。
私は、地価の下落の構図(金融・税制・不動産諸規制などバブルを崩壊させた状態)を据え置いたまま、果たして4、5兆円で不良債権の処理ができたとは思えない。なぜなら、資産デフレの構図を野放しにしておけばさらに地価が下落し、また不良債権が発生するからである。
処理というと聞こえはよいが、オウム真理教でいえばポアと同じ。殺せと言えば聞こえが悪いが、ポアしろとは言いやすいという代物である。
銀行から資金を借りて返せない状態の債権を不良債権といい、その処理とは借りた人を破綻させることであり、そうすれば失業者の発生と、その負債が分散され、多くは金融機関の負担となり表面化する。それでは、金融機関が借金を棒引きして処理すれば、その分また金融機関が赤字を被る。赤字を補い自己資本比率の基準を満たすために公的資金を導入すれば、それは国が債券を発行して借金を肩代わりすることとなる。
借金の棒引きに使われるのは公的資金だけではない。低金利政策で銀行が一般預金者に本来支払うべき利息をほとんど払わず貯めて、借金棒引きの原資に利用されているのだ。
そもそも、地価下落の称賛と不良債権処理の奨励ほど矛盾しているものはない。スパイラルな地価の下落は、今日の健全債権も明日からまた不良債権化していくことを財務官僚や政治家、マスコミ、ジャーナリストなどはどう考えているのだろうか。地価の下落に歯止めをかける施策を講じずに不良債権処理をしようとするのは、水の漏れているバケツに水を注ぎ込んでいるようなものである。
羹あつものに懲りて膾なますを吹くの例え通り、金融機関は貸付先に資産を売って金を返しなさいと言う。そして一方ではポートフォーリオを口実に、健全な不動産購入希望者にも不動産融資総量規制による融資額の報告を求める財務官僚を恐がって長期の融資はしない。つまり、売れ売れと言いながら一方では買うな買うなと言う矛盾から、更に地価が下落し続けているのである。
こうした矛盾を指摘することもなく、不良債権処理を急げといったところで、どれほどの効果があるかは推して知るべし。まさに、田原氏には悪いが氏の言葉は遊びの域を脱しておらず、机上の空論である。
改めて提言するが、不動産の政策減税を早急に断行し、取得と譲渡にかかるものは低額の手数料制にして、保有にかかるものは半分程度に大幅減税すること。そうすることで不動産が流動化し、利用価値の低い宅地は農地の収益性にアレンジされ下がるが、インフラ投資の進んだ都心の宅地は上昇に転じて経済は活性化し、全体として増収となることは間違いない。しかし小泉総理も財務閣僚も、まだ地価を安定上昇させる必要性を論じない。
需要と供給で物の値段は決まるし、収益還元価格で地価が決まるわけだから、地価を安定上昇させるには収益が増えるように用途地域の変更や容積率、日陰、斜線、消防法の規制の緩和を図り、同じ面積の土地により多くの建物が建ち、無駄な設備をしなくてすむようにすれば建物のコストが下がり、そしてその開発のための不動産の購入にどんどん融資をつけるようにすれば土地の需要が増え地価は上昇する。
不良債権の処理の費用を考えればすぐにできるのに、自ら始めたバブル潰しの呪縛に捕われているマスコミが恐くて誰も言い出せなくている。まさにこれも自虐的である。


米国一極支配体制の狙いを看破せよ

 そんな間隙をぬって外資はただ同然の安値で担保付きの優良資産をバルクで買い叩いて巨万の利を得、また日本に売り戻している。そして、その利益と低利の日本の資金を使って日本の優良な会社(株式)を買い占めている。
日本人は熱しやすく冷めやすい民族であり、すぐ一色となってヒートアップする。諸外国では十数%が常識の消費税3%導入時のあのばか騒ぎ。そして、自らも住宅ローンとセットで資産を持っているにもかかわらず、その資産の下落を叫ぶバブル潰し狂騒劇。先日までのすさまじい魔女狩り的森降ろし劇。今また異常とも言える90%を超える支持率の小泉フィーバー。この小泉総理の唱える新世紀維新は官僚支配の日本の政治を国民の手に取り返すことであり、いずれも大賛成だが、米百俵の話だけはいただけない。
今、景気を回復させ経済を活性化させるには、痛みに耐えて節約して頑張るのではなくて、皆が元気を出して豊かな人は豊かな生活をすることが必要で、中産階級の人でも欧米諸国のように別荘が持てて、一家に2台、3台の車を持ち、老後が不安で今ある手許金も使えないお年寄りが安心してお金を使い人生をエンジョイすること。グリーン車やスーパーシートにもやっかみが恐くて乗れない国会議員が堂々と国民の代表として利用できること。企業の交際費の損金算入を大幅に認め、どんどん使わせ元気を出すこと。大幅減税を実施し、悪平等社会の持続を願っての高累進所得税や相続税の大幅減税をすること。これらが今、喫緊の課題である。
冷戦勝者米国は、ポスト冷戦国家戦略として中・露の軍事力の封じ込めと日本の1400兆円の金融資産を横取りして、世界の一極支配を狙っている。軍事面におけるBMD(弾道ミサイル防衛)構想、エシュロンによる情報支配とインターネットによる英語の世界言語化、英・米(アングロサクソン)法の国際法化、金融会計基準のSIC基準化と、BIS基準(88年)遵守、キャッシュフロー計算書の義務化(00年)、有価証券の時価評価(01年)、退職給付引当金の100%引当て(01年)、販売用資産の減損会計(02年)など、これらを通じて日本の経済を弱体化させ買い占め、米国(英)一極支配体制の確立を狙っている。
小泉政権の誕生は歴史的快挙であり、高支持率の今こそ衆参同日選挙のチャンスでもある。この選挙に大勝して連立政権を解消し、3年間かけて戦後タブーの全てを見直す抜本的改革を断行すべきである。そして、3年以内に不良債権の処理を完了させるには処理に伴う一層のデフレの圧力に勝る景気の活性化が必要である。この受け皿を準備しないで不良債権のハードランディングを図れば景気は失速し、債権バブルは崩壊し、スーパーインフレとこの先予測される米国株式の下落により、日本初世界大恐慌の引き金を引くこととなる。小泉総理の賢明な施策に期待したい。



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