金融の国際化に対応できない大蔵省 クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ銀行(CSFP)の資産運用商品をめぐり、国内の金融機関や商社、メーカーなど約60社が総額3,000億円の「不良債権飛ばし」をしていたことが、新聞の第一面で大々的に報じられていた。 顧客企業は、不良債権処理を先送りして決算を良好に見せ掛けるために商品を購入し、クレディ側は運用を委託された不良債権を海外のペーパーカンパニーに移し替えるなどしていたというもので、金融監督庁は「市場の公益性を害する商品」と認定する一方で、「商品を購入して決算を取り繕った顧客企業にも責任がある」と指摘している。 これは、まさに「粉飾決算ほう助」以外の何ものでもないにもかかわらず、金融監督庁はこれに対応する法整備が不十分で「検査妨害」などの違法行為のみとして処分を下すようである。その弱気な対応ぶりを目の当たりにすると、95年に米国において大和銀行ニューヨーク支店の行員による米国債の違法取引で、1,100億円もの損害を被った上に、禁固2カ月に340億円もの罰金を科せられ、米国から追放処分を受けた時のことが思い出される。 この時も国際化に対する大蔵省の遅れはひどく、「先端的デリバティブ(金融派生商品)はリスクが大きく専門知識が必要なのに、国際金融局検査官はその専門知識も乏しく期日を元号で記載させたり、貸出先の財務諸表を日本円に換算させるなど、形式ばかりにこだわり中身のない検査に終始し本人からの告白状が届くまで事件に気付かず、その後も米当局への報告の指導もせず、日本の金融当局の監督能力が疑われた。 今回の処分も、東京市場では外資系金融機関が一種の治外法権下に置かれていると言われて久しいが、そう指摘されても仕方がないような甘い処分である。 ヤクルトがかつてデリバティブ取引に誘い込まれて1,000億円(その内かなりの部分は手数料)を超える損失を被った。外資系金融機関は、自らは手数料収入を確実に稼ぎながら、ハイリスク・ローリターンにしかならないデリバティブと称する合法的な詐欺的金融商品で、日本の銀行マンでもほとんど理解できない金融商品(金融先物取引・LBOファンド・ワラント債券・長短金利のスワップ・金利高騰リスクに対するキャップ・為替リスクのヘッジのための通貨先物取引・通貨スワップなど)を、金融機関の信用で今も日本の優良企業に押し付けている。 戦後の東西冷戦時に、朝鮮戦争やベトナム戦争などの漁夫の利とモノ作りで蓄えた1,200兆円の金融資産の取り返しを狙って、今度は米英冷戦勝国は国際金融資本やヘッジファンドを使ってハイテクを駆使して瞬時に巨万の金を動かし、日本や経済弱小国アジアのバーツやペソ・リンギ・ウォンのような通貨やその国の株式をもてあそび空売りを浴びせたうえで、ムーディーズやS&Pなどの格付機関を利用して格付けを引き下げるとリークし、通貨や株式が下がったところで格付けを落とし、さらに引き下げるとともにあらぬ風説を流布して通貨や株式を暴落させ、為替レートの切り下げを余儀なくさせ、その後に買い戻すなどで巨額の利益を上げたり、通貨安に追い込んだ後で暴落させた株式や不良債権化した優良不動産担保付債権をバルクセールで10〜20分の1ぐらいの値段で買叩いたうえで、10%前後の運用益を稼ぎながら資産価値の上昇を待ち、その通貨が高くなった時に処分をするなど、不良債権処理やデリバティブに十分な理解をしていない銀行や企業に一番安値の時に売らせて大火傷を負わせているのが実情である。今回の日本におけるクレディ・スイス・グループの損失隠しによる不良債権飛ばしも、多額の手数料(一説によると500億円)を稼がれても決算の見栄えを良くしようとして破綻の先延ばしを画策したものの、結局は国際金融資本のエサとなってしまったものと言えよう。 日本人は、米国のバブルがはじけて既に資産価値が下がり始めていた84年から89年頃でまだドル高の時に、米国の欠陥不動産や企業をバカ高値で買い、その後暴落し、今度は米国の景気が回復してきて上がり始めようとしてきた矢先でドル安の94年から96年頃に安値で処分をして売買差損と為替差損でダブルに大損をし、今また一斉に大蔵省の指導で日本の優良不動産を一番安値で外資に叩き売りをしている。 最大の景気対策は地価の安定 こうしたバブルの崩壊で資産デフレに喘ぐ上場会社のサラリーマン経営者は、粉飾決算のためとは言え、詐欺ともいえる危険な商品に手を出すのも、バブル崩壊により大きな痛手を被った金融機関、商社、ゼネコン、メーカーが未だにスパイラルに続く資産デフレから再起を図れずに苦しんでいる証しとも言えよう。このように不良債権の拡大を招いた原因は、官僚や政治家・銀行がバブル高騰とその後の急速潰しの責任から逃れるべく、不良債権の処理を時効までの5年間先送りしようとしたことに尽きる。 今回のバブルの高騰とその後の崩壊は、85年のプラザ合意で始まった過剰流動性によるバブルに行政当局が適切な手を打たず、金融機関が手を貸し、マスコミも今や日本は世界第2位の経済大国となり、「いずれ日本経済は米国を追い越す」とはやしたてて地価の高騰は日本経済の力だとあおり、上がりすぎた地価が市場原理で下がり始めようとした時に今度は一転して下り坂でアクセルを踏みこむように官僚、政治家、マスコミが一体となって地価高騰性悪説を執拗に流し、不動産融資総量規制や地価税の創設に加えて国土法による監視区域の設定と、固定資産税と公定歩合の棒上げで地価の引き下げに狂奔した結果であり、そしてその後遺症はいまだに国民の心に棲みつき、「地価は下がれば下がるほうが良い」という妄信的な呪縛から解き放たれずに残っている。 私はこれまで幾度となく地価の取得、譲渡、保有に掛かる税を大幅に引き下げることが、景気回復の特効薬であると述べてきた。保有はともかく、「取得と譲渡」に掛かる税を一定期間でもよいから0にすべきだ。そうすれば、不動産は流動化し、上がるべき地価が上がり、下がるべき地価は下落し地価は安定化する。 ところが現実はと見れば、地価の安定を図るどころか、不良債権処理の先送りに終始し、挙げ句の果ては、平成の徳政令ともいえる安定化特別保証制度に基づき中小企業には最高5000万円の無担保で不良債権化必至の貸し出しや、ゼネコンには借金の棒引き、さらには公共投資の大盤振舞いの一方で、金融機関は中堅優良企業からはBIS規制や2001年ペイオフ対策により貸剥しと言っても良い貸し渋り政策をとり、健全企業でも不動産購入資金には融資をしない。一方、懸念先企業にリストラを強要し社宅やグラウンド、挙げ句は本社・工場まで処分を急がせるとともに、RTC(債権回収機構)に集めた不良債権資産の一斉処分を図り、土地の需給バランスを崩し、外資に叩き買いのチャンスを与えている。 資産デフレによる債務超過企業の延命策としての異常超低金利の継続がすでに3年以上にも及んでいるが、この恩恵で集められた低金利資金が米国へ流れ、米国の株価を押し上げ、日本の優良資産や株式の安値買いに使われていることは言うまでもない。 日本が円安誘導を採ることでアジア経済全体に悪影響を及ぼしていることも周知の事実である。この先、日本の景気が上昇に転ずるようなことになれば、米国の株価の大暴落を招く恐れもあり、それを契機に世界恐慌の始まりになる可能性も高い。 ペイオフ解禁の延期を そうした大恐慌の惨事を招く発火点となる、と知ってか知らずか、わが日本は相も変わらず、目先の問題のモグラ叩きに終始した政策でお茶を濁している。1日も早く、地価の取得と譲渡・保有にかかる税を大幅に軽減し、金融の安定するまでの間ペイオフの解禁を延期し、不動産融資の抑制を中止し、健全企業に資金がまわるようにすれば、国と国民の貴重な資産である不動産と株式の健全な上昇を図ることができる。そうなれば、国民の貴重な不動産資産が外資に叩き売りされたり詐欺まがいのデリバティブ商品に翻弄されたりすることはないはずだ。 このまま地価と株価の安定を図れなければ、日本の21世紀は非常に暗いと言わざるを得ない。資産デフレが進行する中で低金利だけでバブルの傷を癒そうとしても、なかなか効果が上がらないことは明らかだ。 今の政治家を眺めれば、日本の将来を憂うべき姿とは程遠く、政策で一致せずに単なる数合わせに終始している。 今回の「自・自・公」は、かつての「自・社・さ」連立政権と変わりなく、とても国民の支持と理解を得られるとは思えない。公明党と自民党の連立は、ますます政治を混迷化させバラマキ福祉に終始し、今最も必要な改革を先送りしてしまう危険性に満ちている。やはり、自・自を中心にしっかりと政策協定を結び、その政策ごとにパーシャル連合で議会を通すのがベターであろう。党籍にこだわることなく政策に共鳴する同士を募って、政治がリーダーシップを発揮し今時の不況に対応して欲しい。 その政権がスパイラルに続くデフレ不況に歯止めを掛けないと、今度は「ハイパーインフレ」と「超異常高金利時代」を迎えることになろう。米国の株価大暴落に端を発する世界恐慌の幕開けが21世紀の幕開けと重ならないことを、私は今、真剣に祈っている。 |
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