藤 誠志エッセイ
小渕政権の大盤振舞い


ヤフー株価に米国の株バブルの影
 各企業の厳しい決算の発表が相次いでいる今朝の大手新聞に掲載されていた一つの記事が私の目を引いた。それは、『ヤフー経常益3倍』という大見出しの記事であった。中身を読むと、インターネット検索サービスの大手のヤフーが99年3月期の決算を発表。「売上高で前年比約50%増の19億1400万円、経常利益で前年の約3倍となる3億9100万円となった」とある。
 97年11月に200万円の初値で店頭登録された株が、躍進が著しいとは言え、たかだか売上高で19億円で経常利益が3億9千万円の会社の株式が、一年半足らずの間に1株6000万円と高騰し、30倍もに値上がりをし、時価総額が8130億円になったということは、まったくクレイジーとしか言いようがなく驚異の出来事であると感じざるを得ない。
 しかもヤフーは、97年、98年ともに無配であり、97年は売上高4億円・利益5000万円、98年は売上高13億円・利益1億3000万円で99年になってやっと売上高で19億円、利益で4億円になった中小会社であることを考え併せれば、この株価がいかに異常な高騰か想像が付こうというものだ。資本主義市場経済社会においては、当然のごとく、株価は需要と供給で決まる。店頭登録株式は1日の上げ幅に上限の制限がないとはいえ、この2日間で2800万円もの上昇はとんでもないことである。
 ヤフーの大株主である米ヤフー・インクの好業績と、米店頭市場(ナスダック)におけるインターネット関連株の絶好調によることは言うまでもない。まさに、インターネット・ハイテク関連株というだけで株が買われ、それに引っ張られる形で1万ドル超の株価を維持している米国の株式市場は、“株バブル”の真っ直中にあると言えよう。
 米国においては、インターネットで本を売る会社(アマゾン・ドット・コム)の株価が、会社自体がいまだ赤字を計上しているにも拘らず、天井知らずの高値を更新し時価総額が3兆円を突破していることで知られるように、インターネット・ハイテク関連の株価は鉄火場の様相を呈している。素人が迂闊に手を出すと大火傷をするほどに、米国の株式市場は博打に近い領域に入っているらしい。もし、私がソフトバンク、あるいは米ヤフー・インクの代表であったら、株を店頭市場で売って株価を下げることなく、今の高株価を利用して健全な会社の株と交換して企業買収や提携を推進していくことだろう。そう考えると、中には、この株価が本物と思い込み、自らの健全株と交換して紙屑を掴んでしまう人が出てくるのではないかと危惧するものである。
 冷静に考えれば、すぐに気付くとは思うが、総資産も売上高も経常利益もさして大きくない企業の株価が1年足らずで30倍にもなり、1株当たり額面5万円の株が6000万円にもなれば、いずれ大暴落の憂き目を見ることは必至であり、目の前の高騰に血迷った投資家や自らの企業の株式と交換し暴落の憂き目に遭う愚かな企業経営者が出ないことを祈りたい。
 確かに今後のインターネット産業の将来性は買いであるが、現在の株価はすでに将来性を折り込み済みであり、こうしたインターネット関連を中心とした株が、今日の米国の高株価を支えているとしたら、この先、いつ、米国の株価が暴落し日本の株式にも累が及ぶことになるか分からない。そうなれば、日本の景気はまたまた激しく失速することになろう。

延命工作に奔走する小渕政権
 ここにきて、小渕政権は“何でもあり”の政策を強引に進めている。発足当時、十数%の支持率しかなかった小渕総理としては、統一地方選挙と自民党の総裁選挙に勝って、続投を確実なものにするためには、人気獲得と景気回復に向けて、なりふり構わぬ姿勢を貫く必要があった。それが、「一般家庭には2万円の地域振興券」「中小零細企業には無担保5000万円融資」「ゼネコンには債権切り捨て」「金融機関には公的資金導入」である。
 平成の徳政令の連発により、地域商店は一時的に潤い、中小企業はひとまず倒産の危機を脱し、ゼネコンの負債は銀行が背負い、その背負った負債を銀行は公的資金で賄うことができた。小渕政権の支持率は三十数%までに上がり、景気も微弱ながら回復に向かう兆しが感じられる今、小渕氏は「再選のための環境は揃った、作戦通りに事は成就した」と独りほくそ笑み、自画自賛し今夏から秋にかけて解散総選挙を画策していることだろう。
 そして自民党が一定の勝利を得るだろうが、来年になれば、無担保5000万円の借入金は返済を始めていかなければいけなくなり、中小企業の中には返す当てもないのに借りた企業も多くあり、当然、倒産続出という事態の発生が考えられる。現在、株価が小康状態を保ち、景気回復の胎動が感じられる背景には、米国の異常な株価の高値に不安を感じた米国の投資家の分散投資がある。それが、日本や東南アジアへの回帰をもたらしたのだが、その恩恵の中身をしっかり見極めずにいまだスパイラルにデフレが進行し、地価が下落しているにも拘わらず、景気が回復しつつあると安易な錯覚に陥っている感が強い。

地価の安定こそ不況撃破の正攻法
 本当に景気を回復させるには、何度も言っているように、まず、『地価の安定と上昇』である。現在のように、毎年、土地の公示価格が下落し続ける中で、いくら地域振興券や公的資金をばらまいても、景気回復には結び付かない。早急に、土地の取得と譲渡にかかる税をゼロとし、保有に掛かる税金をゼロに近い水準まで切り下げるべきである。
 地価が安定すれば、国民や企業は安心して不動産を購入し販売ができる。地価が暴落したとはいえ、いまだにまだ日本の金融システムは不動産本位制であるから不動産の流動化を図り、下がるべき過疎地の宅地や郊外の農地の地価は下がり、インフラの整備された都市部の下がりすぎた商業地などが上がり始める。
 そうすることによって、全体として地価が安定・上昇に向かい、銀行は思いきった不良債権の処理が可能となる。
 この際、著しく債務超過に陥っている企業は市場から退場し、サバイバル戦に勝ち残った企業がそのパイを分かち合う。そして不良債権問題に決着がつき、銀行も安心して不動産を担保に融資ができる環境が整えば、貸し渋りも鳴りを潜めるに違いない。
 しかし、現在のように、だらだらといつまでも地価の下落が続き、それによる株価低迷が続けば、金融機関はますます『融資先をしぼり担保掛け目を下げ金利にスプレッドの上乗せを増やし、少額の融資を高利で貸す高利貸に近い営業』に走ることになる。いや、そうせざるを得なくなるだろう。
 こうした悪循環が続く限り、一時の回復の兆しもアッという間に消え、景気回復の道筋は予断を許さないものになろう。とにかく、地価の安定策の断行に尽きる。小渕氏は自らの延命と当面の選挙に打ち勝つために大盤振舞をし、地価政策で抜本策を示さないまま再選したならば、その後の景気の先行きには寒いものがある。
 視聴率稼ぎのための気まぐれで「ひがみとやっかみの報道はウケる」とのマスコミに操られた魔女狩り的なバブル潰しで始まった自虐的不況の克服には、歴史観と世界観に基づきリーダーシップを発揮し、今必要なことをすぐ断行できる政治力を置いてない。
 皆がそうだから、私も…。世論調査がそうだったから、私もその流れに乗って…。といった政治家はこれからは必要ない。「赤信号、皆で渡れば怖くない」といった発想では将来「赤信号、皆で渡って皆死んだ」という国になる。
いまや、国民一人一人が独自の歴史観と世界観に基づいて判断し、行動すべき時代に来ていると思う。