住宅取得で資産形成 先日、日銀の企業短期経済観測調査において、主要企業製造業の景況感はバブル崩壊後最悪の水準にまで落ち込んだことが示された。不況の平成10年度の幕切れに相応しい暗い報告であったが、私には、同日発表された住宅着工数が110万戸と前年度を20万戸も下回ったという記事のほうが衝撃だった。 住宅需要の不振ぶりに合わせて、自民党税調はようやく年末になって、住宅取得促進税制の拡充を図るべく新型の住宅減税制度の創設を2年間の時限措置として発表した。内容は、ローン残高の一定割合の税額控除適用期間を現行の6年から15年に延ばす。ローン残高の上限を現行の3000万円から5000万円に引き上げる。最大減税額を現行の最大180万円から最高580万円に、さらに住宅買い替え時に発生した差損分を最長4年間所得から控除する譲渡損失繰越控除制度は、現行では「住宅取得促進税制」との間でどちらか一方しか利用できなかったのが、同時に利用できるようにする、というものであった。 しかし本来は、アメリカ並みにローン利子が発生する限り、所得からの控除をしたり個人の住宅にも法人の建物のように減価償却を認める制度にすべきで、これだけでは住宅取得促進のカンフル剤としての期待は少ない。住宅に関しては取得税が掛かるにもかかわらず、消費税が掛かるのはダブルカウントであり、早急に廃止すべきだと思う。 ローン利子の所得控除制度の導入が見送りとなったが、本来ならば、新制度の改正内容よりもこちらを優先すべきであって、住まいに要した土地と建物に関するローンの利息を全額控除することこそ、必要なのではなかろうか。130万戸から110万戸にまで落ち込んだ住宅需要は率にすれば20%弱だが、20万戸の住宅が建たないという事が経済に及ぼす悪影響は計り知れない。単純に住宅一戸3000万円としても20万戸となれば、ざっと6兆円になる。これだけ消費が減ったことになる。しかも、住宅が増えれば関係するあらゆる産業を潤すとともに、家具の買い替え、家電製品の購入なども増えるわけで、ざっと10兆円以上の経済波及効果が期待できるのに、これが手控えられたと言えよう。 地価の安定化が景気回復の礎 住宅公庫の金利が2%までに下がりながら住宅需要が盛り上がらないのは、新規の第一次取得層しか住宅を買えない状況にあるからにほかならない。買い替え需要はと見れば、すでに住宅を取得した人が現在持っている不動産を売りたくても、買った時の値段で売れない。含み損が現出してしまう。だから、需要が起きないのは当たり前のことと言えよう。 バブル崩壊後、資産価値が年々下落して買い替え需要が低迷していることが住宅需要の落ち込みとなり、景気回復の足を引っ張っていると考えるならば、不動産の取得と譲渡に掛かる税はゼロにするなど、土地の流動化を促進して買い替え層が買いやすくする思いきった税制を採るべきである。現行の損失繰越制度を一つとっても見ても、買い替えに伴う損失が全額償却できるまでの期間、無条件で税控除が受けられるようにすれば、おそらく需要は大きく飛躍するに違いない。 この買い替え層の需要が喚起されなければ、一次取得層だけに頼る住宅着工には限界があり、今後の着工数の伸びは期待できまい。 現在、住宅金融公庫は史上最低の金利2%で100%ローンが実現しているが、これも一次取得者に限定されていて、買い替え層の需要を呼び起こす刺激にはなっていない。オーバーローンを組み、赤字を現行の低金利に置き換えてはじめて、買い替え層が動くわけで、こうした施策を早急に採るべきであろう。さらに、前述したが、不動産の取得と譲渡に掛かる税(印紙税・登録免許税・不動産取得税・建物消費税・譲渡所得税・事業所取得税など)を2、3年間の時限立法でもよいからゼロ税率にする。住宅取得に掛かるローンの利子控除を全額払い終わるまでの期間認める。併せて、法人には認められている建物の償却制度を個人にも認めることである。 日本では税制において法人と個人の格差が大きすぎる。スポーツ選手や芸能人が高額納税者となった翌年、納税額が極端に少なくなることがある。所得が減ったからではなく、むしろ所得が増えたため法人化したことにより税金が少なくなったのであって、こういうことができること自体に税制の欠陥があると言わざるを得ない。本来、個人と法人の間に税の格差があってはならない。 予断許さぬ金融システムの行方 現在の不況の最たる原因は、バブル崩壊後の資産デフレであることは言うまでもない。地価を下げるための不動産融資総量規制と公定歩合の棒上げ、国土法で一定面積以上の地価の凍結と下落を図った結果、地価と株価が大幅に暴落し、ゼネコン・デベロッパーなどに融資していた金融機関の不良債権の増大を招くとともに不動産融資が融資総量規制から外れていたノンバンクに集中し、そのノンバンクに融資していた大手銀行に不良債権が植物連鎖のごとく集まった。その不良債権を処理すべく、公的資金の導入や業務純益などにより、その不良債権の償却を進めているが、一方では地価や株価のさらなる値下がりで健全債権が不良債権化して、減るはずの不良債権がさらに増えるといういたちごっこの果てしなき負の連鎖である。償却以上に不良債権が増え続ければ、銀行はますます貸し渋りを強化し、最後には金融システムの崩壊を招くことは必至であり、まさに政策不況と言える。 そもそもバブルとその崩壊は東西冷戦の終焉の前後、アメリカやヨーロッパにおいても見られた。諸外国は責任者の処分とともに思い切った措置でそれを乗り切ったものの、日本では責任者の時効が成立した今頃になってようやくその後始末に乗り出したのだから、バブル崩壊の傷を2倍3倍にしての処理であり、塗炭の苦しみを味わうのは自業自得と言わざるを得ない。 景気が最低水準まで落ち込んだ今も、政治家や官僚、マスコミは急速なバブル潰しが誤りであったとは認めず、しかも抜本的な資産デフレからの脱出策を掲げることができず、金融システムの崩壊が始まった今もなお無為無策に終始している。 資産形成に千載一遇の平成11年 こうして書いてしまうと、新年は暗い年と思われるが、考えようによってはこの不況の時期こそ見方を変えれば、絶好のチャンスと言えよう。低金利を利用して住宅を取得するのにまたとない機会である。35年間固定低金利の恩恵を満喫し、今回発表された2年間の時限立法の新型の住宅減税制度を利用すれば今こそ絶好の好機である。 赤字国債の乱発によって公共事業の拡大と大幅減税を行い、異常超低金利の継続にもかかわらず現在はまだデフレスパイラルに歯止めが掛からないが、資産デフレの後には、必ず大きなインフレがやってくることは歴史が物語っている。住むことに負担が懸かっていない人はいないわけで、家賃より安い月々の返済額で住宅を取得できればノーリスクであり、将来の資産形成に弾みが付くことは間違いない。 これからの時代は、年金や退職金、生命保険に頼っていては心許無い時代である。自分の才覚で資産を形成し、老後に備えることが賢明な生き方と言える。そう考えれば、漫然と高額な家賃を払い続けている人は、決断すべき新年を迎えたことになる。 インフレはこの後必ずやって来る。インフレには必ず高金利で対応することになる。今度住庫金利が0.2%上がって2.2%となったとしても、基準金利の5.5%に比べればまだまだ相当低い。この時機に、国家や会社に甘えず、不確実な時代だからこそ、一日も早く自らが決断して豊かな人生の将来基礎とも言うべき自らの住まいを所有すべきだ。本年は大多数の貧者と賢明な富者に分類の始まる年であり、自らと自らの家族の将来のためにも今こそ決断の時である。 |
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