自自連立の合意 未曾有の現在の貸し渋り不況は、5年前の竹下派の分裂によって小沢氏を中心とする一部議員が脱党し自民党が野党に転落したことで、バブル崩壊による資産デフレに有効な手を打てなかったことに起因する。 今日の地価・株価の低下による信用収縮の原因は、この分裂に端を発すると言ってもよい政策不況と言えるのだが、先日、その小沢氏が率いる自由党と自民党が連立することで合意を見た。 この5年間を振り返れば、自民党が野党に転落し、政策も理念もない単に数合せの非自民・非共産の集合体である細川連立政権が生まれ、その後、自民党の与党復帰願望だけの野合と言ってもよい自社さ連立のまさかの村山連立政権など、政策的になんら共通する部分のない政権が次々と生まれては消えていった。本来ならば、政策理念の一致する行革・減税と規制緩和に取り組む小さな政府を志向する政党と、結果の平等を主張し社会福祉を重視する大きな政府を目指す政党との、2大政党に分かれ、政権交代可能な政治体制を創造していかなければならないのである。 そうすることで、延々と続いてきた政・官・業の癒着の談合体質による非効率・高物価の社会構造にメスを入れることができるのである。今回の自自連立は、分裂以来、小沢氏とは不倶戴天の間柄といってよい野中官房長官が小沢氏にひれ伏してでも政権への協力を請い実現したものであり、ある意味では英断とも言える。 野中氏は、変節だ、節操がないと数々の非難を浴びているが、天下国家を考え政策で一致する連立政権で日本の政治に安定を求めた野中氏の決断は、いずれ歴史が評価してくれることだろう。 自民党にとって、先の金融国会で2カ月も翻弄させられた揚げ句、民主党案を丸呑みさせられるとともに、防衛庁長官の問責決議案が可決されるなど、このままでは小渕政権はもたないという危機感を募らせたことと、次の衆議院選挙では大幅な議席減が予測される自由党にとって、野中氏の提案は、まさに渡りに船だったに違いない。 そして、ようやく、政策に基づく初の連立へとなったと言ってよい。 高物価・非効率社会の打破 私はこのエッセイの中で、小さな政府を志向する政権が生まれて、「高物価・非効率・談合」の既存優位の社会を打破しなければ、活力ある経済の再生は望めないと言い続けてきた。 消費税の凍結と、その後の断続的に2%ずつの引き上げによる駆け込み需要の連続の期待には賛同できない面もあるものの、小沢氏の主張する大幅恒久減税と大幅規制緩和、行政改革には共感できる。少なくとも、直間比率の見直しや大幅所得減税は、最優先させるべき政策であり、共鳴できる。 自民党を自分党と呼ぶそうだが、今日の政党、政治家を見るにつけ、党利党略、派利派略よりもさらには個利個略に奔走し、自らの議席維持に汲々とする議員が多い中で、自らの理念を堂々と主張する小沢氏には、ぜひ頑張ってもらいたい。 閣僚数を現行の20から3つ減らし、両議院の比例区議員を50人ずつ削減する、これらは小沢氏の唱える行政改革の当面の目標であるが、国会議員から行政改革を始める視点と決断には敬意を表したい。現在の国会はディベートの場ではなく、議員は所属する政党の投票マシンでしかない。 衆議院200名、参議院100名程度に削減しても民意を反映して討論するということでは十分だ。 両議院でのそれぞれ50名の議席の削減は即断行し、区、県、市、町、村会議員も大幅削減を図るとともに、無報酬化すべきである。 俊敏さと決断力こそ米国のパワー 日本人の一番悪いところは、議論するのが下手で、たとえ議論しても決断する人がいないことである。 長銀の処理においても、2カ月もの期間を要してようやく決着を見たものの、その間に株価も地価もさらに下落してしまった。 一方、米国は、ヘッジファンドが破綻すると見るや、連邦銀行が数日間で36億ドルもの資金を救済融資の手立てをする手際のよさを見せ、同時に、わずかの期間に数度に及ぶ公定歩合の引き下げをも断行するなど、株価の下落を未然に防ぐ方策が実に素早かった。 こうした緊急時に対しての俊敏な対応力と決断力が米国の力そのものであり、日本の金融国会のもたつきと対比して、その対策と決断に要する時間に格段の差があることは認めざるを得ない。 今回の自自連立の合意により、少しでも俊敏に事に対処できる政治体制ができるのではないかと私は期待している。 現在の経済不況は、バブル崩壊に伴う大幅な地価と株価の下落に端を発していることは誰もが認めるところである。 私はずっと、土地の譲渡と取得に関する税に対する思い切った減税を訴えてきた。 参議院においては少数与党ゆえ、野党の協力を得なければいけないとは思うが、猫の目連立で、所得税も払っていない人にまで商品券の支給をするなど野党の人気取り政策に終始し、デフレ不況の根本的な原因である地価と株価の安定に焦点が絞られていないのは残念である。 地価の安定が景気回復の起爆剤 バブル崩壊後から今日までの状況は、地価が暴落し、株価が下がり、その影響を受けてデベロッパーや不動産業が成り行かなくなり、そこに融資していたノンバンクやそれに保証をしていたゼネコンが不良債権を抱えることになり、食物連鎖のごとくその不良債権が都市銀行等に波及して金融の破綻を引き起こすこととなった。 これに対して政府は60兆円もの資金を用意し、公的資金を投入して金融システムの安定と貸渋りの解消を図ろうとしたり、住庫融資を増やしたり金利を2%にまで下げたりと躍起になっているが、元凶にメスを入れずに薬ばかりを投与しても効果のほどは疑わしい。 金融機関への公的資本の注入も政府は25兆円も用意したものの、各金融機関は自らの経営責任を問われることを恐れ、6兆円足らずの規模に止まった。 公的資本の注入だけでは貸し渋りは解消されず、三位行、四位行以下の取引金融機関おいては元利金をきっちりと返済している高額納税の中堅優良企業の融資先に対してさえ、プロジェクト資金や運転資金の折り返し融資をためらっている現在の状況から変化は期待できない。本来景気回復の担い手である中堅優良企業までが事業の縮小を強いられることになっている。 こうした景気回復に逆行する不当な貸し渋りが罷り通ることのないよう、金融監督庁は金融機関にいっそうの監視とチェックの目を光らせてもらいたい。 莫大な税金の投入によって、後世に大きな負担を強いることなく、一番費用が少なくて済むのが、不動産の取得と譲渡に絡む政策減税を実行して、地価の安定上昇を図ることである。 併せて、小さな政府の実現のために、閣僚、省庁、議員、公務員、公社、公団とその関係会社の大幅削減を伴った行政改革と、官が行うことの全てを情報公開するとともに、できる全ての機関の民営化と大幅規制緩和を断行し、今だ公然と行われている高物価社会の因ともいえる天下りを通じての官・民癒着の構造を根元から断ち切ることである。 私は資本主義市場経済社会は弱者や必要性の薄れた産業に、退場を促す社会であるべきだと思う。 この場合の弱者は「弱社・弱業」であって、この弱社・弱業を救済し続けてきたことが、今日の活力のない日本社会をつくった、と言ってよい。 本当に弱い者には生活保護や医療保護、奨学資金制度を充実して、豊かな人の慈善や国家が擁護すればよい。 しかし、弱社や弱業を救済し過ぎると、新しい産業の芽を摘むことになる。 炭坑救済、農業救済、繊維・造船救済、そして今回の金融、ゼネコン救済と、公的資金の投入や護送船団方式と呼ばれる官僚指導では新規参入を阻害し既存業界を擁護して、業界強社が業界弱社を救済する方式が行われてきたが、今からは既存業界にも新規参入をどしどし認め、ニュービジネスにもチャンスをもたらす時代である。 二十一世紀、世界は変わる ここに来て、未来は現在より暗いと考える人が増えているという。 しかし、グローバル資本主義の持つ欠陥を是正(ヘッジファンドの規制など)を通じて世界経済の一層の成長が期待できる今のこの時期こそ、私から見れば、絶好の好機であり飛躍のチャンスではないかと思う。 ハイテク技術革命は産業革命に匹敵するほどであり、全ての既存の戦後システムを洗い直し、おそらく21世紀の初頭においてグローバリゼーションのもと法律・習慣・地域ブロックなどあらゆるものが大きく変化し開花するに違いない。 行政の怠慢はこのハイテク革命の速さに飲み込まれてしまうだろう。 いずれ、大幅な規制緩和は、農水酪業・製造・販売・通信・医療・物流・教育・金融などの壁を取っ払って一変し、農水酪業の工場化と工場の無人化、在宅診療、遺伝子工学、カプセル高速物流ネットワーク、情報ハイウエイ、超高速道路網、リニア鉄道、オフィスの在宅化、テレビ会議システム、バーチャルリアリティーショップ等により、「コンビニ・宅配・通販・カラープリンター付き音声入力パソコン・モバイルパソコン衛星テレビ電話・双方向デジタル高品位インターネット壁掛けテレビ電話等」で、ほとんどの事ができてしまう時代がくる。 それは、銀行や役所、郵便局に図書館、診療所、宅配新聞、旅行代理店、書店、オフィスやスーパー、デパートやレストランに塾や学校でさえ必要の薄い時代の到来である。 グローバル化とボーダレス化と長寿化が進み、医療革命とハイテク革命がさらに進化し、セキュリティーや環境に、家電・自動車・住宅・医療などのハイテク化に取り組む会社は隆盛を極め、今次の資産デフレ不況が過ぎれば、必ずや大型で長期の好景気がやってくると私は断言できる。 21世紀は壮大な破壊(戦争)から地球規模で環境問題に立ち向かい、人々が豊かさの実感をできる時代にしなければいけない。 しかし、誰もが豊かさを実感できるわけではなく、努力に見合った真の平等社会の到来でもある。 自自連立政権の発足が、既存システムを徹底的に作り直し、21世紀を豊かさが満喫できる新しいシステム構築のきっかけになることに期待したい。 |
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