ヘッジファンドの破綻でドルが暴落し、米国の信用収縮が始まる 私は前々から、日本の金融システムの揺らぎに伴い、「日本発世界金融恐慌」の危機を懸念していたが、その懸念がいよいよ現実味を帯びてきた。ここにきての東南アジアの通貨危機に加え、ロシア経済の崩壊によるルーブルの大幅下落が、“一強全弱”と一人勝ちをしていた米国の経済に暗い影を落とし始めた。 米国ニューヨークの株価が7月に9337ドルという大変な株高を記録して世界を驚かせたのも束の間、8月のロシアのルーブル取引停止で、さしもの米国の株価も一時7600ドルまで値を下げた。その影響を端的に表したのが、年率で10%〜40%もの利益を稼ぎ出してきた米国のヘッジファンドに陰りが見えてきたことである。 ヘッジファンドとは、企業および個人投資家から500万ドル以上の資金を預かり、それを株や債券、通貨などの現物や金融派生商品(デリバティブ)で運用して高収益を追求する投資ファンドをいう。500人未満の投資家の出資金で運用されるため、内部資料の公開義務がなく、その全容は謎の部分が多い。 ハイリターンを求めて世界をまたに機動性が高く、かの有名なジョージ・ソロスの率いるクオンタム・ファンドもロシアの投資で損害を被ったが、有力ヘッジファンドの一つである「ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)」に至っては大損害を被り倒産の危機に瀕する事態に陥った。 慌てたニューヨーク連邦銀行が仲介役として乗り出し、大手金融機関を動員して36億ドルもの出資をして救済するという前代未聞のこの事件に世界は度肝を抜かれた。 少数の投資家のために米国の公的金融機関が仲介を果たして救済した是非についての論議はあるが、多くの米国金融機関がヘッジファンドに多額の資金を投融資している実態を考えれば、連銀の措置は素早い対処と言えよう。 情報と決済手段の発達によるグローバル化と即時性で、世界の金融市場をデリバティブを駆使して未曾有の資金を操作する巨大なカジノ場とし、巨額な利益を稼ぎだしていたグローバル資本主義もいまや崩壊の淵に立たされた。 ウォール街に忍び寄る暗雲 米国のヘッジファンドの危機が露呈された今、米国の信用収縮は避け難く、ここにきて僅か2日間で20円もの大幅なドル安が米国の狼狽ぶりを物語っている。これはまた、コンピュータに依存して天文学的にまで投資額を膨らませてしまったハイテク投資への過信が招いた悲劇でもある。 そもそもロシアの経済危機は遅かれ早かれ起きるべき出来事だったと言える。 東西冷戦が終わっていきなり資本主義経済に移行しようとしても、そうたやすく変われるものではない。かつて資本主義経済を経験したことのある東ヨーロッパ諸国は比較的速やかに復帰できたものの、封建主義国家から社会主義国家へと移行して資本主義経済の経験のないロシアでは、何が起こっても不思議ではない。 ロシアには徴税制度も確立していなく経済運営もでたらめで、政府はただルーブルを印刷するだけで短期の国債の金利は実に50%を超えるところまで上昇していた。 そういう国にハイリスクな大型投資をしていてデフォルトにあったからといって救済してくれとは少々虫がいいとも言えるが、今日のデフレスパイラルに米国をも巻き込み、世界恐慌の道を進ませないためにも、今回の措置は日本の長銀処理と比べその迅速さは評価できる。しかしこのデフレスパイラルに歯止めをかけ世界経済危機から脱出するには、やはり日本経済の再建が欠かせない。 今のアメリカの証券市場は借金でバブルを起こした節度のない投機市場であり、米国の株価がバブルではないかと騒がれていた頃、いずれ米国の株価は下がるのではないかと不安視されていた。その株価暴落の前に、日本が金融システムを再構築して景気回復の礎を築かなくてはならないのだ。 米国の経済の好調が世界経済の支え手であるが、その米国の株価が下がり、銀行の貸し渋りが始まり、景気が悪化し、世界恐慌を招く前に、日本が立ち直って「次の支え手」にならなければいけない。 今、論議されている公的資金の投入は是非とも必要であり、経営責任を問う前に強制的にでも早期健全化法に基づき全銀行に早急に一斉に全額投入すべきである。しかし、公的資金を投入したからといって、不良債権総額が100兆円以上はあると言われる日本の金融機関がすぐに貸し渋りを解消すると考えてはならない。貸し渋りの解消には、日銀のコールローンへの保証の導入など、インターバンク市場の信頼の回復が必要である。 そもそも日本の金融システムの破綻は、地価と株価の暴落により、デベロッパーやゼネコンがおかしくなり、そこへ尻抜けの不動産融資総量規制により融資を拡大したノンバンクの不良債権の増大が、ノンバンクに融資をしていた金融機関の破綻へと繋がった負の連鎖の結果である。 ゆえに、この連鎖の元凶を正さなくてはならない。私は本誌エッセイの中で一貫して景気回復の最良の道は「地価の安定を図り、土地がこれ以上下がらないという安心感を国民に与えることだ」と言い続けてきた。 そして、そのためには「個人の住宅の償却と住宅ローンの利子控除」を認めること、と「不動産の譲渡所得税と取得税や登録免許税に印紙税など、譲渡と取得にかかる税を凍結して負担をかけないように時限立法で3〜5年間程度は税金をかけないようにするとともに、保有にかかる税も極力軽減すべきである」と提言してきた。地価が上昇すれば、株価も上昇し、不良債権は縮小され、貸し渋りの解消にも繋がり、日本の景気は回復するだろう。 現在のように、土地の値段がどんどん下がっていく中で、低金利政策と公的資金の投入だけでは“底なし沼に金をつぎ込むようなこと”であり、大幅所得減税と不動産にかかる政策減税で需要を喚起するとともに、規制緩和と行政改革で高物価社会を打破して、豊かさの実感できる小さな政府の実現を図ることこそ肝要である。 経済専門誌もマスコミも事態を理解していない 最近、私が18歳の頃より今日まで愛読し続けている週刊経済誌に「100兆円で不良債権問題解決の提案」というタイトルで、目を疑いたくなるような記事が掲載されていた。その内容たるや、大手都市銀行企画部員なる筆者が、負の連鎖の抜本的対策案を論じているのだが、とにかく笑えるので抜粋して掲載しておこう。 『衣食住に係る財については公的な制約を加えてもいいはずだ。不動産価格を人為的に適正水準に引き下げる。かりに時価を100、引き下げ幅を時価の半分とすると、適正水準である50を上回る価格での取引を禁止するのである。と同時に不動産保有者に対しては、地価引き下げによる資産価値の減少を補填するため、超長期国債50を交付する。交付された国債は金融機関への返済を義務づける。これにより不動産保有主体のバランスシートはスリム化され、借入金負担が軽減される』という内容である。 私は呆れた。要するに、土地の値段を人為的に半分にして、その下げた分の国債を交付して、それを銀行に払うというものだが、あまりの馬鹿馬鹿しさに開いた口が塞がらない。このようなレベルの私見を掲載させた一流週刊経済誌(?)の編集長に愛読者の一人として少なからず落胆もした。そもそもここまで下落した地価をさらに半減すれば、不良債権は数倍に膨れ上がり、不良債権問題は解決するどころか、一気に拡大してますます大変なこととなる。 住宅や土地は国民の貴重な資産である。今や国民の7〜8割が持ち家を持つ時代。その資産がどんどん下がって嬉しい人など本来一人もいない。既に保有していたり、買ってしまった人が今から買う人よりはるかに多いにもかかわらず、いまだに一部マスコミは地価が下がれば庶民は住宅を取得しやすくなってよいと唱えている弊害とも言える。 国民一人ひとりが一日も早く大蔵省、日銀、マスコミが一体となってバブル潰しの大合唱をした呪縛から逃れて、低レベルのマスコミに躍らされることなく、自らの考えでどういう選択が正しいのかを判断する時期が来ているのではなかろうか。 地価の下落、株価の暴落、不良債権の増大、貸し渋りの横行という負の連鎖の歯止めには公的資金の投入は必要かもしれないが、それを生かすには不動産にかかる政策減税が絶対に必要である。 本来なら、公的資金の投入額に比べれば政策減税、とくに土地の譲渡・取得・保有に関する減税のほうがはるかにコストは少なく効果的なのである。私は提言したい。「不動産の譲渡と取得にかかる税を当分凍結すること」を。このゼロ税率により不動産の下落に歯止めをかけ、不動産の流動化を図ることこそ、日本が金融恐慌の渕から脱出する唯一の策であり、世界経済の“支え手”となる最善の方策である。 千載一遇のチャンス こういう時代だからこそ、むしろ考えようによっては千載一遇のチャンスの時でもある。庶民にとっての公的資金の投入とも言える住宅金融公庫融資が2%で全額借り入れできる今のチャンスを活かして、賃貸住宅から脱出して出来るだけ大型の持ち家を購入すべきだ。 デフレの後には、もっと大きなインフレがやって来ることは歴史が証明している。チャンスの女神には後ろ髪はない。今や国家や会社に頼ることなく自己責任原則の下、未来に決断を下し、自分と自らの家族の将来のためにも防衛戦を開始するときだ。 一億中流国家と呼ばれる日本も、このデフレスパイラルに歯止めがかかった頃には日本的システムの崩壊により10%の富者と90%の貧者に分類される。サバイバル戦の勝者を決するのは今であり、千載一遇のチャンスだ。 |
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