戦争総括のなかった日本 今日の貸し渋り不況や、日本の金融システムの破綻について、マスコミは連日連夜にわたってその現象や公的資金の導入の是非を報道しているが、その背景に触れているところは残念ながらない。私は、直接的にはバブル潰しを急ぎ過ぎたことによる地価の大幅下落にその因があると考えるが、根本的には今の社会、経済、教育制度の歪みの多くは太平洋戦争の総括を 怠ったことに起因していると思う。当時、戦争責任をとらなければならない人達が罪を免れ、その多くが戦後日本の指導層に組み込まれていった。その背景には、ドイツ敗戦末期から激しさを増してきた社会主義全体主義国家ソ連と資本主義民主主義体制のアメリカによる戦後の世界支配を巡っての争いの中で、日本敗戦後の帰属を巡っての米国の思惑が見え隠れする。当時東側に組み込まれた東欧や分断占領されたドイツ・朝鮮と比べれば西側に属した日本はまだ幸せであったとは言えるが、そのツケが今、回ってきたとも言えよう。 第二次世界大戦以前にも東西冷戦はあった。しかし、全体主義国家として世界支配を謀るヒットラー率いるドイツに勝利するには、“敵の敵は味方”という選択しか西側諸国にはなかった。 その結果として、アメリカはソ連に軍事的支援をしたのだが、戦争が終われば再び社会主義革命で世界支配を狙うソ連と西側資本主義諸国との矛盾が拡大し、米国は日本を西側の一員に繋ぎとめようと、戦争責任を曖昧にした。上官の命令に従って行った下級軍人の捕虜や占領地住民に対する虐待に対してのB・C級戦犯にはかなり過酷に刑罰を課したにもかかわらず、戦争を引き起こした本当の責任者であるA級戦犯は一部は別としてほとんどの処分を放棄してしまい、これを追及することなく、軍官僚を始めとして日本支配の官僚機構のほとんどを残して戦後再建指導部の中に放置してしまった。 米国とすれば、戦後日本の占領政策に旧軍国主義にくみした者を利用することが、東西冷戦に撃ち勝つために最も都合のよい選択であった。その結果、戦争総括のないままに責任逃れの恩恵を受けた人達が戦後日本の基になったことは否めない。 その総括なき戦後体制が、東西冷戦の終わった今、大きな矛盾となって日本の未来を覆い始めた。 太平洋戦争後、日本は地政学的にも東側と対峙する最先端の不沈空母として軍事的要衝であるとともに、西側のショールームとして米国の庇護の下、冷戦特需の恩恵を受けて漁夫の利を得てきた。 戦後の日本は、私に言わせれば、時の政権党に票と資金を供給するための官僚主導の統制経済で、ゼネコンと農協、重厚長大産業に配慮した護送船団方式で新規参入を阻害し優勝劣敗を排除した既存優位の政・官・業癒着の体制であった。 それが、戦後のまだ貧しかった間は、米国に追い付け、追い抜けと効果を発揮し、表面上は上手く機能しているように見えた。しかし、ちょうど経済大国と自負するまでになって米国というお手本が無くなった時、東西冷戦は終焉を迎えたのである。 ポスト冷戦体制 東西冷戦の終焉により世界は大きく変わり、それまで冷戦によって恩恵を受けこの世の春を謳歌していた日本は、日本だけが繁栄すればよいという手前勝手な官民癒着の一国資本主義はもう通用しない時代になってしまった。 BIS(国際決済銀行)基準に合わせて、自己資本比率が8%に達しない銀行は外国での業務はできないというのもその一つであろう。 政府は早期是正措置により本年4月から経営の悪化した金融機関に業務改革や業務停止を命ずることができるということで、不良債権を多く抱える銀行は、自己資本比率8%を達成するためには業務純益で不良債権の償却を図るとともに貸し渋りにより貸付け資産の圧縮によるしか方策がなく、自らを守るために貸さない方針に徹した。その結果、デフレ不況は急速に加速し、企業倒産が増大する結果となってしまった。 優良企業の優良プロジェクトにも融資が付かず、融資金の回収のみに銀行が走れば景気は悪くなる一方で、景気が悪化すれば、ますます株価が下がり不良債権が増える。自己資本比率8%を維持するためにはますます貸し渋りに拍車がかかる。そして、デフレはスパイラルに加速し、日本発世界恐慌のシナリオが現実味を帯びてきたのである。こうした危機を打開するためには、政府は即刻、不動産に対する大幅政策減税の実施と土地と株の値上がりを図り、国際決済銀行にBIS基準の見直しを迫るとともに、大蔵省には早期是正措置の先送りをやらせるべきだ。 天下り禁止で談合体質を廃止し、高物価社会の是正を 政権が代わっても変わらない現在の日本の官僚システムを改革スリム化しなければならないし、大幅規制緩和を断行して社会主義国に近い統制経済は即刻改めるべきであろう。今、問題になっている防衛庁の兵器調達に関しても、その価格は一社独占の原価積み上げによる話し合い査定で決まるからであるが、これは氷山の一角であり、今、官から民への発注の全ては談合で決まるというのは政・官・業・マスコミの暗黙の了解事項であり、濡れた犬しか叩けないマスコミの責任は大きい。 このような官民癒着の談合体質は全て天下り制度にその因があり、これは日本人の寿命が長くなりすぎたことに社会のシステムが対応していっていなくなったことにも原因がある。 55歳前後で勇退し、天下り先の確保で老後を考えざるを得ないことに、国民やマスコミの容認があるからである。よって早急に天下りをしなくてもよいシステム「定年制の延長や老後の私設年金となる収益資産の取得と保有に有利な税制」をつくり、天下りを禁止すべきである。“官僚の最大の仕事は先輩の天下り先を確保することだ”と公言するほどで、あらゆる官僚は 省庁を問わず、老後を優雅に過ごすための天下り先探しに余念がない。自らの権 限で国の金を遣って、自分の老後を買う。まさに、官・民のこうした癒着とこれを黙認するマスコミ、さらに政・官・業の癒着が、日本の高物価社会を造り、税金を高くしていると言ってもよ い。 所得の割にはちっとも豊かさが実感できない国にしてしまった根源は、官僚の公僕としての自覚の欠如のほか、情報開示と競争の原理のない談合社会の現状にある。今日になっても、官が全ての情報を握ってコントロールしようとしていることから癒着が生まれる温床となっているのである。 完全な情報公開と自己責任の原則のもとに、公正な競争と新規参入の機会の平等の保証をすることこそが、資本主義市場経済体制下のグローバル・スタンダードの原点なのである。日本の場合、談合や馴れ合いの日本的協調体制がジャパニーズ・スタンダードとして横行しているが、すべてにグローバル・スタンダードになるべきだとは言わないまでも、高物価社会の温床となっている官僚の天下りは廃止するべきである。談合による公共工事と非効率・高コストの公社・公団と何万社に及ぶその関係会社を即刻廃止し、民営化を図るべきで、今すぐ省庁の外郭団体の整 理、官僚の定年制の延長に取り組み、官僚システムそのもののスリム化を図るべきである。そうすれば、現業部門の民営化とアウトソーシングにより現在の5分の1程度の規模の省庁でも十分に職務 をこなしていけるのではないかと思えるのだが。 情報開示については官 僚・政治家だけではなく、一般の公開企業にも求められると言ってよかろう。 現在の公開企業は、株主総会だけ乗り切ればよしとする株式持ち合いによるモノ言わぬ株主に、能力よりも学歴や出自に社員の人気で選ばれた社長が、今度は会長としてコントロールしやすい自分好みの後継社長を選ぶ。選ばれた社長や会長は、オーナー然として君臨する。何でも会社の経費とし、利益も赤字も隠して小人数の役員で余禄に預かる不正。そして、株式も持たない経営者の世襲制が幅を利かしても問題とならない経営など、資本主義の論理とかけ離れたことが日常茶飯事で行われている。 また、政治家やタレントの世襲も、地盤や看板や名声には相続税はなく2代目・3代目と何の負担もなく跡を継がせられる一方、資産の相続には70%もの高率の相続税を課す、これは明らかに大きな矛盾である。 省益、私益を求めるのではなく、国益のために働くのが官僚 今こそ、談合、天下り、安易な世襲などの社会的矛盾を正し、本当に開かれた社会に向け、21世紀を前に、先の戦争と戦後53年間を総括し、新しい活力ある日本の再生を図るべき時機に来ているのであるまいか。 ビッグバンは金融だけでなく、運輸や流通などあらゆる産業に否応なくやって来る。官の情報を徹底開示し、規制緩和はもとより不必要な官僚統制の廃止、 天下りの厳禁、さらに大幅減税による小さな政府の実現を一日も早く図るべきである。 資産デフレ不況の元凶とも言える土地と株がまだ下がり続けているにもかかわらず、いまだに土地や住宅に大きな税金負担が付いて回っている。取得・保有・譲渡のすべてに税金がかかるとともに、取得税を払って得た建物にまた消費税をとるという税の二重課税に、東京や金沢など全国69市においては、事業用建物にはさらに事業所税として保有税や取得税がまた別にかかるわけだから、売る方も買う方もたまらない。 日本では一定規模以下の新築住宅の取得や居住用住宅の譲渡に税の優遇が集中しているが、私のアメリカの友人の話によると、「アメリカでは、自宅をより高額な家に買い換えるときには無税で、この制度を利用して初めは小さな家からだんだん大きな家へと買い換え、持ち家で資産形成を図らせるとともに中古住宅の流通をサポートしていて、最後に、生涯に一度だけ買い換えに伴わなくても利用できる自宅の譲渡益無税の特典を利用してその持ち家を処分して、ハッピーリタイアメントをエンジョイ出来るようにしている。」とのことで、これは日本でも一考に値すると思う。 自らの資産価値の下落を歓迎する国民 今やほとんどの国民が負債とセットで資産を持っているにもかかわらず、今でもテレビや一部週刊誌などのマスコミの影響から脱しきれず、「地価は下がったほうが良い」と思い込んでいる国民や評論家、政治家が多くいる限り、数十兆円の公的資金をつぎ込んでも長銀を始めとして、実態はほとんど債務超過に陥っていると言ってもよい大手銀行の貸し渋りは解消せず、このデフレ不況から抜け切れないと私は考えている。 即刻、不動産の大幅政策減税と規制緩和は断行すべきで、不動産の政策減税で譲渡と取得に関する税を三〜五年間程度無税にすべきだ。たとえ無税にしてもたかだか数兆円程度の税の減収に過ぎず、その効果は数百兆円の地価と株価の資産価値の上昇につながり、不良債権問題の多くは解消する。土地の価格を安定化させれば、株価も上がり、景気が上向きになるに違いない。このまま地価・株価の下落が続くようだと、本当に日本が世界恐慌の引き金を引くことになってしまう。 今、日本の政治家に求められるものは、「今まで官僚に求められていた記憶力に頼る過去の判例や慣例」に頼る裁量行政ではなく、「無から有を生み出す創造力を重視して、自由にして公正で活力ある競争社会を創りだす」政治家主導の行政である。党利党略による無益な議論ではなく、「物事を決断して、実行する力」である。国家・国民を放置し省益に走る官僚に任せるのではなく、天下・国家を論じ国益を考え、日本の未来の安全と幸福、繁栄を求め続ける真のリーダーこそ、今日本に一番必要なのではないかと思う。 |
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