数十兆円の公的資金導入へ バブル崩壊から7年目を迎え、いよいよ日本の金融システムの崩壊が加速し始めた。その顕著な例が巨額の不良債権を抱えて経営再建を進めている日本長期信用銀行への六千億もの公的資金の導入支援である。これはまさに、長銀支援というよりも、守るべきは日本の金融システムであり、それは日本発世界恐慌の引き金を引かないための処置と言えよう。しかし、私にすれば、あまりにも遅 過ぎたという観は否めない。それゆえに、将来に向けて高く付き過ぎる代償を払わなければならなくなるだろう。 というのも、今回の長銀への公的資金導入はこれで終りではなく、むしろ始まりと言えるからだ。恐らく、今後、数十兆円にも及ぶ公的資金が必要となり、その結果、単独で残るべき金融機関と単独では成り立たない金融機関に選 別、淘汰されることになろう。そして、ゆくゆくは成り立たない金融機関はまとめて国営銀行というカタチをとらざるを得なくなるのではなかろうか。 こうした処置をとらない限り、世界恐慌がすでに始まっていると言っても過言ではなく、日本がその引き金を引くことになる。ロシアのルーブル通貨の大幅切り下げ、米国の株価の下落、アジア通貨の下落とそれに伴う世界同時の株安が進行する中、長銀はなんとしても潰せなかった に違いない。政府のこの決断は、長銀は債務超過ではないという金融監督庁の判定を受けての最終判断であり、長銀でさえ債務超過ではないとの政治的判断で公的資金導入が図られるならば、今後他のすべての銀行も潰さないということを暗示していると言ってもよい。 また、今後数十兆円の公的資金を導入して日本の金融システムを維持していくことは、ゼネコンを潰さないということでもある。そのためにも、今後ますます公共事業の発注が増え、税金が注ぎ込まれることになろう。 昔は軍隊の権力で、戦後は農協が票集めをしてゼネコンが資金面と集票面で政府自民党を一貫として支えてきたことは周知の事実である。そのことを考えればゼネコンと農協系統を保護するための公的資金の導入であるとの批判も当然であるが、ここで大手ゼネコンの一社でも見捨てれば、網の目のように繋がる大手銀行と大手ゼネコンが相互に作用して一気に全体の金融システムの破綻に繋がる危険性をはらんでいるだけに、この際、公的資金の導入や公共事業の拡大はやむをえない処置といえなくもない。しかし、発注にあたり談合を排し、市場経済原則に基づく効率のよい発注で特定少数の利用者しかいなくて維持するだけの経費も稼げない箱ものではなく、将来大きな国民の資産となる道路網の拡充や、首都をぶち抜く地下の横断弾丸道路や高速道路の分離帯を利用しての真空チューブ物流システム、情報ハイウェイの構築や、都市景観維持のための電線の地中埋設化などもっと有益な国家資産の拡充に充てるべきだし、さらには大幅減税で公共事業に代わる大型住宅の建設など民需の拡大で景気の回復を図るべきだ。 地価の上昇こそ最良の不良債権対策 私はかねてより何度となくこのエッセイの中で、下がり過ぎた地価の上昇を図らずして、どれだけ住専や銀行に公 的資金を注ぎ込もうとも、また、公共事業を増やそうとも、地価の下落が続く限り株価は下がり、不良債権は増え続けると警告してきた。そして、その根本原因を正すべく警鐘を鳴らし続けてきた。しかしながら、マスコミは今日に至っても、まだかつて、バブル崩壊による地価の下落を称賛してきた手前もあって、まだ「地価が下がることは大変」との認識はなく、地価の下落が株価の下落に繋がり、銀行の不良債権の増大と貸し渋りに繋がっていると解っていながら、株価対策と貸し渋り対策の必要性は報じるが、地価上昇の必要性を報じない。私は、今ここに改めて提言をしたい。 まず、思い切った不動産にかかわる政策減税を早急に断行すべきである。とくに譲渡と取得に関する税はゼロとすべきだ。また、現在の貸し渋りの状況下では新規の不動産投資に資金が付かず、需要の起こりようもない。優良プロジェクトにも資金が回らず景気はますます悪化する。 米国は自宅と別荘の2棟までは住宅ローンの金利のすべてを所得から控除できるし個人の住宅の償却も法人並に所得と損益通算ができることで、大幅な税の軽減に繋がっている。こうした点を見倣い日本も大幅に住宅減税をすべきではないか。とくに、バブル高騰期に購入した住宅の 譲渡損失に関しては、期限を設けずに、譲渡損失額全額に見合うべき期間、所得税だけでなく住民税を含めた繰り越し損金控除を認めてもよいのではないか。現在の住宅需要は一次取得層だけで、買い替え取得層にまったく需要機運がないだけに、買い替え層 の需要を喚起するような譲渡損失に対する画期的な制度の早期導入を期待したい。 同時に、固定資産税の軽減も速やかに断行すべきである。住宅用宅地が200平米を超えると固定資産税が6倍にもなり、新築の住宅の面積が120平米を超える部分や固定資産税評価額が木造で1平米11万2千円、耐火構造で17万6千円を超えると贅沢であるとばかり懲罰的に固定資産税を2倍にしたりと、少し大きかったり少し建設費が高かったりするといきなり2倍3倍と税負担が増大する税制を改め、豊かさの実感できる住まいづくりに手を貸す税制に一歩近付けることにすべきではなかろうか。今までの日本の住宅政策の多くは、一家族に一住宅ということにウェイトを置き、矮小で貧しい住まいづくりを奨励し、一定面積以上の住宅には住宅金融公庫の融資が受けられなかったり、 金利や税金が高かったりと、規制が強い。これでは豊かさが実感できる住まいづくりなど到底できるはずがない。 小渕首相は大幅所得減税として、個人所得税率50%・法人所得税率40%を提案 し来年度から実行をめざしているが、私にすれば、今年の1月に溯って即実行すべきだと言いたい。さらに、相続税の70%という超高率も、見直すべき税 制の一つである。オーストラリアなど相続税のない国もあるだけに、無税とは言わないまでも70%の税率は改善すべきである。 私が不思議に思うのは、財産については相続税という重い税制があるが、政治家やタレントの看板・地盤・ブランドには相続税が掛からないことと宗教活動は無税だということである。現在の政治家の大多数が2代目、3代目の世襲政治家にタレント、官僚、宗教団体の推薦者であるという事実を見れば、財産にだけに掛かる相続税は高額なだけに、不条理な思いがするのは私だけではあるまい。 豊かさが実感できる国づくり 今まさに、税制の大変革が必要な時期に来ていることは言うまでもない。日本の戦後は財閥解体、農地解放、高相続税制に、超累進課税制度で富の均等化を図り、富裕層を生じさせないという悪平等社会を作ってしまった。税はいったん中央に集め、地方交付金や公共事業などで再分配するという、大きな政府といわれる施策を行い官僚権限の拡大で天下り先としての公社・公団・外郭団体と何万社というその関係子会社を作るとともに、政官業の癒着により莫大な税のムダづかいをしてきた。しかし、そろそろ米国並みに富裕層を育てて、豊かになった人が慈善事業に寄付したり、芸術家や起業家、研究施設に資金を出せる社会環境を創りだしてほしいものだ。もちろん、米国にそういう風潮が強いことは、税制の違い、とりわけ寄付行為にはかなりの減税処置をとっていることと無縁ではない。 そうした税制の改正を推し進めるうえで、現小渕内閣で経済企画庁長官を務める堺屋太一氏の考え方と手腕に私は大いに期待している。誰もが分かるようにきちんと今後の展望を語ることのできない政治家が多い中で、堺屋氏の答弁は好感 が持てる。野党も、堺屋氏の著作の内容と現行内閣の政策の違いを閣内の見解の不一致とばかり、非難する愚行を避けて欲しいものだ。 マスコミの啓蒙で地価の安定と上昇を図りデフレスパイラルに歯止めを 小渕内閣の大蔵大臣には今年10月に79歳を迎える宮沢喜一氏が就任した。彼が首相時にバブルを引き起こしたことは忘れてはならない。バブルは起こした罪も大きいが崩壊させた責任の方がより大きいが、特に時の橋本大蔵大臣のノンバンクしり抜けの不動産融資総量規制の発動が今日の問題の多くを占めているが、敢えてこの緊急時にその責任を追及するのはやめよう。小さな怒りや矛盾は横に置き、今、政策不況と言われる金融システムの揺らぎに伴う資産デフレ、貸し渋り不況に徹底的に対策を講じ、与野党・官僚もマスコミも一体となって、再生日本に向けて一致団結して現在の国難の解決に邁進することを願ってやまない。そのためにも、株安ばかりを書き立てるマスコミはもう少しその原因に目を向け、戦後50数年にわたり続けてきた富の均等化政策により、ローンとセットの土地の細分化で今やほとんどの国民が土地の保有者となって始まった土地本位制とも言われる今日の経済システムを破壊して、国民の貴重な資産である土地を3分の1に暴落させたことこそ今回の金融恐慌と株安の原因であることに早く気付き、地価の安定と上昇に対する施策に手を貸すべきだ。それが今、世界が日本に最も求めていることにほかならないのだから。 |
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