先日、新聞紙上において、警視庁をはじめ全国十都県の警察本部から交通信号機などの保守管理業務を委託されている日本交通管制技術とグループ企業5社が、4年間で総額約9億7千万円の法人税を脱税していたとして、東京地検特捜部が同社社長ら13人を法人税法違反容疑で逮捕したという記事が報道された。社長らはグループ間で仕事を次々と発注したように見せかけ、約30億円の法人所得を隠していたという。 信号機に警察のマークが付いていることを、私は以前より知っていた。だから、信号機の保守点検は当然、警察が管理しているものとばかり思い込んでいた。それが、この記事を読んで、32年も前から日本交通管制技術の前身の会社が請け負っていたことを知り驚いた。この32年間で全国の信号機の数が急速に増え、それに伴い日本交通管制技術の請負額も拡大。今や16万カ所の交差点に設置されている信号機のうち、十都県の信号機の保守点検を独占的に高値で業務委託していたことが、今回の脱税事件を引き起こす引き金となったと言えよう。といって、私はこの脱税事件に時評の論点を置くつもりはない。日本的な談合体質、「政・官・業の癒着構造」を補完する天下りの弊害こそが、この事件の根底にあると考えているからだ。 私は本誌4月号の時評において『大蔵省に限らず建設省や農水省、その他の官庁に市町村や公団など、およそ公共と名の付くものは、全てにおいての物品の購入や工事の発注などの談合容認で大きな利権を有してきた。この政・官・業の癒着のトライアングルの構造こそ、日本的慣行とも言え、この談合体質を下地に戦後長年に亘って政・官・業の癒着で利益に預かれるそれぞれが甘い汁を吸ってきたことは誰もが知る所である』と述べたが、まさにこれが日本を高税率・高物価社会にした元凶である。 今回の事件は、警察に深い関わりのある企業が談合はおろか、欲しいだけの価格で、長年に亘って随意契約を繰り返してきたことに問題がある。随意契約とは早い話が言い値で受注を受けるということであり、高値で請け負えば、当然膨大な利益が生まれ、その有り余った利益を隠すがために脱税という手段を取らざる得なくなったというのが真相であろう。まさにこれは公金横領にも等しい犯罪である。 にも拘らず、某大手新聞社の社説では、『信号機の保守管理は故障した場合にすぐに対応しなければならない。このため、24時間の出動態勢が求められる。しかも、車の通行を止めずに作業を行うので、危険も伴う。作業中は排ガスも吸う。技術面に加えてこのような要素が重なるために新たな業者が生まれにくい』と言うが、民間では24時間出動態勢のホテルやガードマンに、車の通行を止めずに作業を行い、危険で(?)作業中排ガスも吸う沿道沿いの看板工事や建設工事も受注合戦で競争が厳しいのに、新たな業者が生まれにくいとはとんでもない見解だ。また、その社説の中で『警察OBは今回逮捕されていないとはいえ、日本交通管制技術グループでそれぞれ役員に就いている。組織的な脱税の責任の一端はまぬがれない』などと、さりげなく警察OBが逮捕されなかったことを強調するとともに、『そのグループ企業の社長である警察OBは、事件が表面化した後、伝票操作したことを認め、まずいだろうという気持ちはあった。現役時代、不正や不法を取り締まる立場にあった人が、不正に加担したり見過ごしたりする。仕事も役員人事も警察と深く関わる企業グループが起こした脱税事件は、警察の信頼にも傷をつけた。』と論評してあったが、私の目には、これは警察の組織ぐるみの犯罪としてしか見えないし、警察新聞の身内擁護の社説としか映らなかった。第4の権力として、政・官・業の癒着を厳しく糾弾しなければならないマスコミの見解としては、お粗末すぎるのではなかろうか。 元警視総監を顧問として、32年間にわたって競争を排し、随意契約で暴利をむさぼり続けた結果の脱税事件は、警察の威信に傷がつくどころか、まさに警察の犯罪であり、組織的公金横領である。おそらく、警察の天下りを多数抱えれば、摘発もないと高を括った、ある種の驕りから生まれた事件であろうが、まさに、日本的馴れ合い・癒着・談合社会が生み出した極みとも言えよう。報道機関の使命として、今回摘発された十都県以外の県ではどのように発注されているのか、調査・報道すべきだと思う。 また、こうした脱税事件にまでは発展していないものの、日本の各省庁においても天下りの受け皿として省庁本来の業務を別会社を設けて委託し、高額な発注を繰り返して膨大な利益を生み出している役所が随所にあるのではなかろうか。 今回の事件といい、本誌3月号に記載したように、天下りによる日本道路公団とその下請け企業に見られる癒着・談合体質により非常に高コストの工事を恥ずかしげもなく受注し、非効率の極みとも言える経営を行っていることからして、この種のことは官とその関連子会社などにおけるあらゆる所で日常的に行われていると疑ってかからねばなるまい。 同時に、官が絡む仕事については民間よりも価格が30%は高いという事実も見過ごしてはならない。自らの失政によって起こした政策不況を公共工事を以て脱出しようと政府は目下画策しているが、こうした公共工事予算の膨脹は、ますます税金のムダ遣いを助長するに過ぎない。景気回復は談合、不正発注による公共工事で図るのではなく、サッチャーリズムやレーガノミクスと呼ばれる大胆な規制緩和と税制改革に学び、現在65%の最高税率を35%程度に引き下げる大幅所得減税と、投資減税に不動産にからむ政策減税を行うとともに、小さな政府の実現を目指し公務員の削減を図り、規制緩和で自由な競争原理を導入し、本当の資本主義市場経済社会をつくりだしていかなければならないのではなかろうか。 今こそ、そうした日本的な悪習に断固メスを入れなければならない時である。にも拘らず、マスコミは期待に反して一過性の報道でお茶を濁し、どうでもよいような平等社会からはみ出たひがみとやっかみやのぞき見趣味的報道と、エロ、グロ、スキャンダル的報道に終始し、ますます興味本位にワイドショー化している。今回の事件も、おそらく三日もたたぬ間にすぐに忘れ去られることであろう。 マスコミは今回の事件を脱税事件として報じるだけでなく、どうして脱税をせざるを得なかったのか、どうして膨大な利益を生むほどに儲かる仕組みなのか、官・業の癒着を32年間も放置した責任はどこにあるのか、誰に一番の責任があるのか、すべてを解明しなければならない。突き詰めていけば、そこに、「規制を以て新規の参入を阻む体質」、「政・官・業の癒着による弊害」、「各省庁に寄生しはびこる税金泥棒」が見えてくるはずだ。 これらは全て官僚の天下りによって成り立っている現実を見据え、官僚の定年制延長と天下り永久禁止を即実行しなければいけない。こうした資本主義市場経済システムから逸脱した日本特有の社会システムが、ちっとも豊かさが実感できない高物価社会を作り上げているのである。同時に、こうした公務員の不正を監理できないようでは、会計検査院は何のために存在するのかとも疑ってしまう。日本の国はどこまで腐りきってしまったのか、戦後の偏差値教育の弊害による悪平等社会がはびこり、結果の平等と機会の平等とをはきちがえた体制擁護と既存優位の論理で無気力社会を作りだしてしまい、マスコミまでもが今回の事件の報道スタンスのようになってしまったことに、暗然としてしまうのは私だけではあるまいと思う。 今回の事件は警察の威信を失墜させたのではなく、警察ぐるみの犯罪であると厳しく糾弾し、「日本的談合体質、政・官・業の癒着」の氷山の一角と捉え、一日も早く、グローバルスタンダードのもと真の資本主義市場経済社会へと社会システムをつくり変えていかなければいけない。今、日本的談合体質から脱することができなければ、ますます悪平等社会がはびこり、高物価と高税率の斜陽国家への道を進むこととなる。 昨年11月からの不況は、バブル崩壊・資産デフレによる不良債権の処理ができない金融機関の実態を無視した、大蔵省のビッグバンの急ぎ過ぎに対するリアクションとしての自己防衛のための貸し渋りが原因であり、貸し渋りを解消しなければいかなる施策を講じても景気の回復はない。一日も早く金融政策を変更して、スパイラルに進行する資産デフレに歯止めをかける思い切った政策が必要である。 このまま行革法にこだわる橋本政権が続けば、日本発世界大恐慌の引き金を引くこととなることを、私は危惧するものである。 |
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