藤 誠志エッセイ
大蔵省バッシング


 護送船団方式と呼ばれる日本的資本主義体制が音を立てて崩れ、金融システムの揺らぎにともない実体経済が日一日と厳しさを増す中、先日、新聞全紙の1面に、特殊法人「日本道路公団」の外貨道路債券発行をめぐり、便宜を図った見返りに野村証券から総額250万円余りの接待を受けたとして、大蔵省から公団に天下った経理担当理事が収賄容疑で逮捕された記事が派手に掲載された。
 金融業界、官界に衝撃が走ったものの、その理由は汚職疑惑というよりも、この程度の接待で逮捕されたことへの驚きであった。この程度の飲食やゴルフ等の接待は社会通念の範囲であると考えていたためで、ある官僚などは「接待を受けたとしても便宜を図るわけではないのに」というコメントまで発している。
 今回逮捕された公団理事の井坂容疑者も、弁護士を通じて「理事として軽率な行為であったと深く反省している。しかし、これらの会食等によって特定の証券会社に便宜を図って職務を曲げたようなことはないし、金銭を受領したことも一切ない」と、身の潔白を力説している。
 しかし、「接待を受けたとしても便宜を図るわけではない」この言葉はきっと本音とは思うが、まさにこれが官僚一般の考え方であり、今やその常識を問われていると言えよう。
 接待が賄賂に当たるかどうかは検察の判断に委ねるとしても、大蔵省に対する会食・ゴルフ等の接待は、古くから金融機関においては当たり前のこととして扱われ、全ての金融機関に東大卒を中心とした高学歴・超エリートのMOF担(大蔵省担当)というセクションが存在すること自体、まさに日本的慣行である。
 今回の件は「二年半の間に41回、258万円の接待」が今までの常識を覆して収賄であるとの疑いで逮捕されたことであるが、なれ合い・談合体質を糾弾する記事は別に目新しいものではない。むしろ1回あたり6〜7万円という少額の接待額と同時に、野村証券の元副社長までもが贈賄容疑で逮捕されたことであり、金融・証券業界には大きなショックだったことは言うまでもない。おそらく彼自身も、これまで通りの仕事の延長として井坂容疑者への接待を行い、それがもとで、まさか自らが逮捕されるとは夢にも思っていなかったに違いない。それが、あっさり逮捕されたのだから、同業他社の経営者にとっても背筋が寒くなったことであろう。
 公団は『第二の予算』と呼ばれる財政投融資をふんだんに使って、高速道路を造り続けてきた。97年度においても、5兆3000億円もの資金を調達し、現在の負債は既に22兆円にものぼっているという。特殊法人改革の流れの中で、経営の合理化が求められているが、その不効率癒着談合体質の最大原因である現在の天下り制度を改めなくては、改革は決して進まない。
 外国で高速道路を利用したことのある人なら誰しも頷かれることだろうが、欧米の高速では3車線が常識なのに日本の高速道路はほとんどの区間で2車線しかなく、また一車線の幅も狭く不必要な所で曲がりくねるクロソイド曲線で、ガードレールも危険極まりなく、20〜30Hも走れば必ずといってよいほど毎年のようにできる轍わだちの補修工事にぶつかり、まさに欠陥道路を走っているようなもので、命を預ける者としては諸外国と比べて大変割高な料金を払いながらも、快適とはとても言えない。
 しかも、その欠陥道路の補修工事が道路公団の関連子会社に高値で発注されている。その関連子会社には公団の職員が天下り、非常に高コストの工事を恥ずかしげもなく受注し、非効率の極みとも言える経営を行っているのだから、経営の合理化など机上の空論といっても過言ではなかろう。
 高速道路のサービスエリアのガソリン代も割高で、おにぎりの味一つとっても日本一まずくて高いと、断言できる。まさに、特定の業者と癒着して出店させることにより、市場経済の原則ともいえる“切磋琢磨”を排した結果の独占企業の弊害が、おにぎりの味にも顕著に現れている。
 他にもバカバカしいことが多い。料金所の進入口には“右タイヤ”というペイント表示があるが、これを必要とする神経そのものを疑ってしまう。そこに左タイヤを乗せてしまうとぶつかってしまうのは一目瞭然にも拘らず、ペンキ工事を発注せんがために、右タイヤという表示をご丁寧に施してある。きっとこのペンキ屋にも公団職員が天下りしているのであろう。
 また、時々見掛けるものに、「料金所ではいったん停止しましょう!」という横断幕があるが、料金所で、もしいったん停止しなければ、料金未払いで追及されるわけで、これなども、看板業者に発注せんがために無理に造り出した垂れ幕といっても差支えない。
 さらに、もう一つ言わせてもらうならば、高速道路カード“ハイカ”を、なぜもっと買いやすく便利にして販売しないかということだ。
 即割引されては困るということで、サービスエリアでの販売は認めながらも、料金所でハイカを販売しないのは、利用者を無視しているといわれても仕方あるまい。ただでさえ高いといわれる日本の高速道路料金をできるだけ割り引いてハイカの利用を便利にし、長距離で高額料金を支払う人のために、料金所でハイカを購入できるようにすべきではないか。

 道路公団にも色々な問題があるが、今回の道路公団の不祥事は大蔵バッシングのスケープゴートに大蔵省のOBが選ばれたと見えるのは私だけだろうか。今まで長年にわたって組織的慣行的に繰り返してきた飲食・ゴルフの接待が、今回は収賄にあたるとして逮捕されたわけで、野村証券だけで年間39億円もの交際費を遣っている中で、しかも、これまで通りの接待攻勢を続けてきた中での、今回の元副社長の逮捕は、本人だけでなく野村証券にとっても晴天の霹靂だったに違いない。
 こうした当然の如く行われてきた接待が、賄賂ということになれば、全ての官僚とMOF担などが逮捕の対象となり、高級飲食業界、ゴルフ業界に多大な影響が及ぶことは必至と言わねばなるまい。
 それがここのところの貸し渋りから悪化の一途を辿る景気をさらに後押しすることにならなければよいがと、私は密かに危惧している。
 この際交際費の非課税枠を、現在最大四百万円を一社一千万円程度に拡大し、飲食業界から景気回復を図るのも一方法ではなかろうか。

 今日の貸し渋り政策不況の元凶はバブル崩壊に伴う資産デフレ不況である。表面的には第一次オイルショック時のトイレットペーパー騒ぎと同じで、お金がない、お金がないと騒ぎながら個人も「銀行が心配で」タンス預金、企業も「貸し渋りを恐れて」タンス預金、銀行も「コールマネーが取り込めないことを心配して」タンス預金、と個人も企業も銀行もお金をためこんで一千二百兆円もお金を抱えて金がない、金がないとの大騒ぎはまさにトイレットペーパー騒ぎと同じ政策不況である。
 しかし、本質は銀行がバブル崩壊に伴う資産デフレ(土地・株の値下がり)で貸し出し資産が不良債権となり、その償却で自己資本比率が悪化している中で、橋本総理が人気取りのために勝手に決めた金融ビッグバンの期限が近づいてきたことによる。このままではとても厳しい国際金融戦争に打ち勝てないとの身構えが今日の 貸し渋りの原因であるが、その貸し渋り不況の基である土地と株価の回復を図らずに貸付金の圧縮で自己資本比率をクリアしようとしての貸し渋りがさらに資産デフレを招きスパイラルに景気の悪化を招くこととなった。
 今、行われている貸し渋り対策は分母としての資産(貸付金)の圧縮と、分子としての自己資本の充実、優先株と劣後債の発行や事業用不動産の時価評価方式への移行などで自己資本比率の拡大を図り、BIS基準を超えればよいとの政策に終始しているように見受けられるが、今の都銀などの関心はBIS基準のクリアだけではなく、ROE(株式資本利益率)の向上にあり、BIS対策としての優先株の発行などはこれに逆行するものであり、国際的金融機関と比べても著しく低いBIS・ROEの向上を目指してのサバイバルである。
 現状がここまで来てしまえば、今までの政府の対策だけでは貸し渋り対策としては不十分で、サッチャーやレーガン並の抜本的な大幅所得減税と不動産に絡む政策減税で、5年程度の時限立法であっても譲渡所得税0税率の適用や固定資産税・不動産取得税の大幅減税を早急に実行すべきだ。
 今一番の懸念は金融システムの崩壊であり、最も大変なのはBIS・ROEにとらわれて融資をしたくても出来ない銀行と資金調達を閉ざされた中小企業経営者である。
 この現実を一日も早く認識し、金融の正常化を図らないと本当に日本発金融恐慌の引き金を引くことになる。
 世界大恐慌を引き起こさないためにも賢明なる政策を政策当局に望みたい。