総務庁が先日発表した1996年の貯蓄動向調査は興味深いものであった。それには、超低金利を背景に、年収格差によるサラリーマンの資金運用傾向の違いがくっきりと浮かび上がっていたからである。 サラリーマン世帯の平均貯蓄残高を年収別に見ると、最低所得世帯(488万円以下)では、貯蓄が前年比11・9%増と大幅に上がった半面、借金は同30・5%減になった。一方、最高所得世(1039万円以上)では、貯蓄が同10・9%減になり、借金は住宅・土地購入などのため同18・7%増と膨らんでいる。この結果を総務庁は、「高額年収世帯では低金利を理由に金融資産から住宅や土地などの実物資産へ移行。低額年収世帯では高齢化に対する不安からの生活防衛態度」と分析している。言うなれば、 高額所得者は低金利を生かして借金をし、せっせと不動産を買い 低所得者は借金を減らし、バス代で消えてしまう利息にも拘らず貯蓄に励む ということである。こうした低金利への対応の違いで、バブルの崩壊・超低金利下で「富者は富み、貧者はますます貧しくなる」構図が見えてくる。 消費税2%の上昇はデフレ現象で消え、その影響は非常に小さいにも拘らず、消費税が5%に上がるといって、様々な駆け込み需要が起こっている世の中の状況がバカバカしい。例えば、マンション購入に際して、現在、住宅金融公庫の金利は長期固定で史上最低の3・1%である。この金利と消費税のアップ率を比較・検討してみれば、いかに消費税率アップという幽霊に踊らされているかが安易に知れようというものだ。 消費税が上がる影響度と、金利の上がる影響度を係数的に比べてみると、消費税率2%アップによる商品価格の上昇は、2500万円のマンションの購入で約40万円(※)、月々わずか1584円の返済増であり、金利に換算すれば0・076%の上昇に過ぎない。つまり、現在の3・1%が3・176%になるだけのことである。 一方、金利の方は、上がるとなれば、一気に現在の3・1%が3・5%→4・0%→…5・5%と跳ね上がっていく。つまり、物を率で換算して考えれば、10%→30%→…70%アップで、2500万円のマンションが2800万円→3200万円→…4400万円のマンション購入の金利負担となるわけで、金利を軽視していたずらに消費税アップにばかり気を取られていると、大局を見逃してしまうということになる。 今最大の局面は、かつて歴史上類を見ない公定歩合0・5%と異常超低金利であり、これをテコに資産の拡充こそ賢者の選択である。賢明な人はせっせと預金を減らして借金を増やして不動産を購入しているのである。もちろん、愚かな人はなけなしの貯金を借金の返済に充てることしか頭にないために、賢者と愚者の格差は今後ますます広がっていくことは言うまでもない。 私は常々、「世の中はサイクルで移行する」と思っている。過去の一点と現在の一点を線で結び、その延長線上に未来を予測する人を、私は 保守 と呼んでいるが、世の中には保守的な人がかなり多く、大多数の人々は「上がりだしたら無限に上がり続ける」と信じ、それがバブルを生み、逆に「下がりだしたらどこまでも果てしなく下がり続ける」と、単純至極に考えている節がある。それが現在の地価の下落である。 世の中をよく観察すれば、自ずと知れることだが、「上がったものは必ず下がり、下がったものは必ず上がる」というのが世の常で、こうしたサイクルの連続で時代は流れているのである。決して、下がりっ放しでゼロに、上ぼりつめて天の彼方へ、ということにはならない。市場経済というものは、「小バブルを作り、作られた小バブルが崩壊する」というバブルが生まれ消えるパターンで、適正な価格に落ち着く性格を有している。すなわち、需要と供給のバランスによって物の値段が決まるというのが、健全な市場経済なのである。 今回のバブル崩壊も、こうした市場経済の本質を無視した無為無策な処方箋が日本経済に毒をもたらした結果に他ならない。バブルが膨らんでいく時には政策当局が供給を増やしていかなければならないにも拘らず、むしろ供給を抑えるなど逆の手を打ち、バブルが頂点に達し、そのままでも下がり始めそうなときに、政・官・民(銀行)・マスコミが上を向いて唾をするが如くこぞって一斉に不動産価格を以前の値上がり前までに下げなければならないと大合唱し、不動産融資総量規制、公定歩合の棒上げ、地価税の創設、不動産譲渡所得税の増税、固定資産評価額の大幅引き上げなどの暴挙に出、それが裏目に出た結果がすべてと言えよう。 不動産に絡む諸税制、諸施策、諸法律を動員しなくても、いずれ土地は値下がりするにも拘らず、下り坂にアクセルを踏み込むこととなってしまった。そのため、今日に至ってもなお、銀行が危ない、ゼネコンが危ないと叫ばれ、金融不安を招いているのである。 しかし、物をサイクルで考えるならば、「下がり過ぎれば必ず上がり、上がり過ぎれば必ず下がる」のだからして、悲観するどころか、不動産の購入に関しては、今はまさに絶好機と言わざるを得ない。 日本経済はデフレ不況で大変だ! と政策当局とマスコミは相変わらず何も手を打たずに騒ぎ立てているが、資本主義の歴史を顧みれば、デフレとインフレが交互に繰り返し訪れていることは一目瞭然である。デフレは一時的、インフレは強弱はあるものの長期間続くという特徴があり、極端なインフレの後には一定期間のデフレは付き物である。 資本主義の歴史はインフレの歴史であり、今回のデフレは東西冷戦の終結によって世界の経済圏が1つになり、高さの違う水槽の中の仕切りを引き抜いたようなもので、一方(西側)の物価が下がり、もう一方(東側)の物価がものすごく上がったわけだが、いずれ均衡し、また上昇を始めるわけで、そう考えれば、バブル崩壊後のデフレは しかるべき出来事といえ、それも今年がピークと私は見ている。 おそらく、夏場以降は、徐々に反転して長期に亘るインフレがまた始まるのではなかろうか。そうなれば金利もどんどん上がるわけで、低利の現在の長期固定金利で資金を調達して、不動産資産を増やすのは賢者の選択と言えよう。 今まで、ホームレスでもない限り、住まいにお金を掛けていない人はいなく、家賃で暮らしているか、購入して金利を払い借金を返済しているか、あるいはかつて負担した親や祖父から相続した家に住んでいるか、同居しているかのいずれかだろう。この中で、自らが住まいに直接金をかけているのは、家賃支払いか、購入後のローン返 済かの2つになる。そして、どちらが多いかとなると、以前は借りて暮らすのが圧倒的に多かった。すなわち、戦前からずっと日本においては、借りて住むほうが、買って住むよりも負担が少なかったからである。 しかし、ここにきて、状況は一変してしまった。異常ともいえる超低金利に土地価格の下落やさらに建築費の安さも加わって、いわゆる『三低現象』を呼び起こし、「借りて家賃を払う」よりも、「買って金利を払う」方が有利という逆転状況が生まれたのである。 こうした状況は、「ホンの一時の現象で、いつまでも続かないと思う。今一時のこのチャンスに決断すべきにも拘らず、あまりにも条件が良すぎてかえってマユツバものだ」と決断できない人もいるが、そうした人は幸運の女神に見放されてしまう人だ。今こそ、借金をしてでも実物資産の取得に励むべきだと、言いたい。しかし、土地 を買ったからといって、そのままにしておけば遊休資産となり、固定資産税や管理費用だけがかさみ、『土地持ち貧乏』になってしまう。不動産には住まいや、貸して収入を得る稼働資産と不稼働資産である遊休地とがあり、遊休地は稼働化を図るべきである。 今後、金利も上がる、土地代も上がる、建築費も上がり、三低現象もいよいよ終焉の時を迎えようとしている。終わってから、あの時買っておけばよかった!と思っても後の祭りである。この時期こそ、長期固定低金利を上手く活用して、住まいや稼働資産の購入を図るラストチャンスであることは、間違いない。だからこそ、借金をしながらも不動産を購入している高額所得者は、私の目には『賢者』に映る。低額所得者も借金減らしや貯金だけに走るのではなく、思いきって低金利の今、一時に一人一回しか借りられない住宅金融公庫の融資を利用してマンションを購入するなど稼働資産の購入を図ることをお勧めしたい。賢者の選択をして、後々に禍根と悔いを残さな いことを願って。 ※土地費には、消費税はかかりません。 マンションは、建物部分のみ消費税がかかります。 |
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