藤 誠志エッセイ
個々の世界観の確立を


新年も引き続き、ペルー日本大使公邸占拠事件、ロシアタンカー重油流出事故、株価の暴落と、暗いニュースが相次ぎ、様々な憶測や報道が巷を席巻している観が強い。
 その中でも最大のニュースとなれば、昨年の暮より毎日のようにテレビ・新聞紙上を賑わしている「ペルーの日本大使公邸人質事件」ではなかろうか。この事件の経過を見るにつけ、国際常識と掛け離れて事を穏便に済まそうとする日本側の弱腰が何とも心許ない限りである。
 確かに、強行突入を図れば、人質の20%近くが死傷するというデータはあるものの、最強の切り札を放棄していては、交渉の進展は今後も難しいと言わざるを得ない。人質占拠事件の場合、強行突入のカードをちらつかせながら譲歩を迫り、テロリストの要求には人質の解放をもってのみ応じ、一人でも多くの人質の救出を図るというのが常套手段である。事件発生直後に、橋本首相がフジモリ大統領に「人質の安全確保を最優先に事に当たってほしい」と電話で要請したようだが、フジモリ大統領としても、自らの弟までもが人質となっているゆえ当然であり、これまで数々のテロ事件の経験から事件の解決に心血を注いでいるわけで、橋本首相が電話をしようが、外務省のオペレーションルームに何度も足を運びウロウロしようが、それらの行為は事件の解決になんら結び付く方策ではなく、単なる政治家のパフォーマンスと噂されても仕方がない。
 私は思うのだが、外務大臣を現地に派遣するのならば「日本政府はペルー政府の解決策を全面的に支持し、大使公邸の治外法権の建前にこだわらずフジモリ大統領の決断を尊重し、物心両面の支援を惜しまない」と宣言するべきで、最初からフジモリ大統領の手足を縛るような、「大使公邸の突入にも日本の許可を得てほしい」とか「ひたすら人質の安全確保に万全を期してほしい」と懇願するようでは、フジモリ大統領としても困ってしまうところであろう。
 今回の日本政府の及び腰を見せつけられるにつけ私は、かつてのダッカ・ハイジャック事件を思い起こしてしまう。あの際も、超法規的処置と称して、収容中の仲間を釈放した上に、さらに身代金まで支払ったのではなかったか。“人命は地球よりも重し”という謳い文句に乗せられて釈放し、日本では一件落着と安堵したようだが、世界の常識に反する愚行を犯した結果、国際的に顰蹙を買い、その後の人質事件の頻発を招き、今回の事件の遠因ともなっている。

 そう考えれば、今回のペルーの人質事件も、決してゲリラの脅しに屈することなく敢然と非道なテロ行為に立ち向かってほしいと願う。かつてのペルーはテロが横行して、その犠牲者は毎年2万人にものぼった。しかし、フジモリ政権になってからは、テロ集団に対する対決姿勢が功を奏して、テロ行為は激減し、過激なテロ集団として名高いセンデロ・ルミノソや、今回のトゥパク・アマルも壊滅的な状態に追い込まれた。そうした状況下で、一か八かの賭けに出て、起死回生を狙ったのが、今回の日本大使公邸占拠だったことは言うまでもない。
 ここで譲歩し見逃したら、今後、他国にある日本の在外公館も同じ危険に晒されるに決まっている。早めの解決、大幅な譲歩を勝ち取るには、「武力突入を図りテロリストを殲滅する」という力の論理を振りかざして交渉に当たるのが最善の策であって、初めから『武力行使はしない』では、ゲリラ側に持久戦に持ち込まれて譲歩を迫られても致し方ない。
 一方で「テロリスト殲滅」の意思表示をし、他方で「国外退去処分」を申し渡す。すなわち、硬軟両用をきちんと使いこなすことが原則で、平和的解決を望むだけでは決して解決しない。一気に殲滅するなど、日本人的発想からすれば無謀と映るかもしれないが、現代の科学力を以てすれば人工衛星や周辺の建物から窓ガラスの振動レーザー音声探知、盗聴器、地表レーダー、電波発信体感センサーなどにより、公邸内のゲリラの布陣、人質の状況、爆発物の有無・位置などを割り出すことはそう難しくはない。まずマスコミを遠ざけた上で一斉狙撃でリーダーら出来るだけ多くを一撃で無力化すると同時に、屋根・壁の爆破で突破口を作り一瞬にして目と耳と行動の機能を奪うフラッシュ爆弾と催涙ガス弾を使っての武力制圧のチャンスを、アメリカ・ドイツなどの特殊部隊などの協力を得て虎視眈々と窺っているに違いない。
 私もフジモリ大統領を高く評価する一人であるが、目下、憲法解釈により3選が危うくなって来ているフジモリ大統領としても、一気解決を果たすことが、世論を背景に3選への道を開く最大の機会と認識しているはずだから、政治生命を賭けて事に当たることだろう。
 こうした成り行きを注意深く見守っている中で、いつもながらに過激で無意味な報道をし続けているマスコミには、うんざりさせられる。人命尊重と言いながらも興味本位の報道姿勢を続け、ある時はゲリラ側の宣伝部員をも務めるような体質には、あきれる思いである。

 マスコミの報道と言えば、日本海沿岸に流れ着いて問題となっている重油流出事故報道も情けない。海岸に流れて来る重油もさることながら、最も深刻な問題としなければならないのは、まだ大半の重油を積んだまま海底に沈んだ船体から長期間に渡って流れ出て来る重油であって、早急に船体を引上げ重油を回収することが最大の急務である。
 さらに、船首部分からの重油の回収も急がねばならないにも拘らず、目に見える重油の行き先ばかりを追い掛け、ボランティアを動員して海岸線の浄化に務めることのみが使命のような報道を繰り返し、油漬けの水鳥を大写しにして、まるで日本海の漁場すべてが汚染され海岸線の全てに重油が漂着したかのような大騒ぎを作り上げている。その上、この時期前から決まっていた海外視察旅行を取り止めなかった町村議長などをいじめの対象とするマスコミの偽善と無謬性に嘔吐を感じるとともに、こういったワイドショー的報道姿勢こそが、風評被害をもたらす元凶と言えるのではなかろうか。
 今回の流出重油はC重油であって、かなり粘土が高く海面ですぐ油塊となるもので、流出予想量3千7百キロリットルは37cm厚で百メートル四方の重油であり、日本海の面積から見ればごくごく一部であり、海岸に漂着するものはせいぜいその3分の1程度であろう。寒風の中でのボランティア行為には頭の下がる思いもあるが、今最大のボランティアは、普段通り美味しい日本海産の海産物を食することと観光旅行にドーンと来て頂くことである。
 もともと原油は古代生物の残滓であり時間が経てばバクテリアが分解し自然に帰る。流れ着いてしまった重油は天候を見ながら整然と回収を図るべきで、ヒステリックなマスコミの報道は風評被害の増大をもたらすのみである。
 一方、株価の暴落にしても、直接的要因は、外国投資家が金融株を中心に日本株を売ったことに端を発するものの、その原因を成したのは、バブル崩壊による地価の大幅下落である。小さな地方銀行が破綻したことを日本のマスコミが大々的に報道した結果、「日本の金融が危ない」という話になり、国際投資筋としても無視できず、日本株の売りに走ったことは明らかなことだ。それが、ここのところの2千数百万円という株価の下落につながったことは言うまでもない。

 日本の不景気は地価と株価の政策的な押さえ込みから誘発されたもので、未だに政・官・マスコミが人為的バブル潰しの非を認めず、資産デフレの進行に有効な手を打たないことに対する市場の警告である。
 景気の悪化、株安・円安・財政赤字の拡大、銀行・証券・保険・年金・住専・ノンバンク・ゼネコンの破綻の原因の全てと言ってもいい地価の大幅下落は、「大蔵省の不動産融資の総量規制と日銀の公邸歩合の棒上げ、国土法の監視区域の設定による無理な地価の押し下げ、不動産譲渡所得税・登録免許税などのアップと土地重課税・不動産買換え特例の廃止などによる土地譲渡にかかる税のアップ、固定資産税・保有税・特別土地保有税・事業所税・地価税の創設などによる土地保有にかかる税の大幅アップ」のためである。土地を金縛りにしてきた様々な税法を廃止して、土地を売却したり買換えしても税金がかからないか、軽く済むように土地税法を抜本的に改革する必要がある。
 今やほとんどの家庭では負債(住宅ローン)と不動産資産をセットで持ち、家計資産の43%が不動産資産であり、また4.6%が株式資産である実体を考え、その資産が目減りしていくことを考えれば、直接・間接を含めて全ての国民に累が及ぶ。
 『裸の王様』の物語に「子供は正直だ」というフレーズがあるが、市場は正直だ。マスコミは自ら加担して始まったバブル潰しとは言え、このあたりで大人になって、やっかみとひがみ根性からの報道姿勢を改め、地価と株価の上昇を図る政策を講ずるべくキャンペーンを張り、プライドを持って事実のみを報道し、商業主義に流されることなく国民一人ひとりの個々の世界観の確立に手を貸し、政・官・民・マスコミが一致結束して事にあたることこそ、今最大の急務である。