藤 誠志エッセイ
総選挙で減税・行革政権を


 鳩船新党とか言われながら船田氏には逃げられ、ようやく今人気の菅厚生大臣を加えてどちらかと言えば「菅鳩新党」となった民主党だが、その成り立ちの経緯の紆余曲折から、中曽根元総理に「ソフトクリーム政党」と揶揄されてしまった。
 確かに、名前が分かりやすく、友愛の精神と市民リベラリズム(アメリカでは死語と化してアメリカ民主党も使っていない)を政治理念に、リベラル勢力の結集を掲げて旗揚げしただけに、マスコミが一斉に注目し、衆議院選挙の目玉政党として囃立てている。しかし実体は、沈みかかった泥舟から逃げだそうと焦る社民党やさきがけの議員が、かつての消費税反対ブームの連合や、前回の日本新党ブームの三匹目のドジョウを狙っての、落選必至の議員の殺到である。従って、まるごとの受入れを拒否する排除の論理を行使するのは政党としては当然であり、また、今最大の支持勢力と言われる無党派層を狙った駆け込み政党と言われても仕方がない。ソフトクリームの例えは、甘くてソフトで食べやすいが芯がなく、選挙が終われば“溶けて消えてしまう”という意味も含んでいるのかもしれない。

 そもそも、政党というのは、主義・主張を同じくする者が集まり、その主義・主張に則った政策を実現するのが本筋である。そのために、主義・主張を以て国民に信を問う、すなわち、国民の支持を得られるかどうかを問うのが選挙である。しかし、現在の政治家を見ると、自分の議席を確保するために、どこの党に所属し何を主張したら一番有利かだけを基準に、行動しているように思えてならない。
 中身は変わらず、表紙だけを社民党に変えた社会党もしかりなら、民主党もまたしかりである。こうした現象は、3年前に自民党が批判ブームにさらされ、旧竹下派が分裂し、脱党した小沢・羽田氏らが当時の社会党提出の宮沢内閣不信任案に賛成して行われた総選挙で、長年与党の座に安住していた自民党が野党に転落したことに始まったと言えよう。

 過半数を割ったとはいえ、比較第一党の自民党を尻目に、小沢氏らは田中派の手法よろしく自らは総理候補を出さずに、新鮮な党のイメージでブームに乗って一気に議席を増やした日本新党の細川氏を担いだことで、細川政権が生まれたが、あの日本新党は今何処に行ってしまったのだろうか。無党派層はブームに乗って一時的に一政党を後押しするものの、ブームが去れば後は知らぬが仏とばかりに、自らが賛同した政治に責任を執らないばかりかすぐ忘れ去ってしまうことが面白くもあり、バカバカしくもある。
 これも、因はブームにすぐ乗る国民と政治家の貧困にあると言えよう。政治的信条とか政策で集まったのではなく、自らの議席を守るには、どこに所属してどんな公約を掲げれば、国民に一番受け当選を果たすことができるかしか考えない。「世論調査」政治家があまりにも多く、国民が騙されたとしてもある程度は致し方ない。
 しかし、今度の選挙でも同じ轍を踏み、新党に無党派層が流れ込むのだけは避けたいものだ。国民もそろそろ新党ブームに飽きてきたゆえ、今度はブームが起こるかどうかは疑わしい。ブームに乗って飛躍を図ろうとする新しい政党に、貴重な一票を投ずる際には、政策や将来性も考慮に入れてもらいたいものである。いくら政治に庶民感覚が大事で、青島・ノックも知事になったとはいえ、野球監督の細君まで担ぎ出すとは情けない。

 今回の選挙で最も注目すべきは、小選挙区制での最初の選挙であり、小選挙区制での威力を知らない予想屋がいろいろ言っているが、小選挙区での選挙は大政党に有利で、小党は別れれば別れるほど不利になるということである。今度の民主党の設立も自民党に利益をもたらすことが予測される。むしろ自民党は、決定済の消費税の値上げを凍結するなどの人気取り的政策をちらつかすことなく、自信を持って規制緩和と行政改革を大胆に訴えれば、単独過半数も十分可能性がある。
 投票率の低下により、オウムや北朝鮮のように機関決定に盲目的に従う組織政党が浮上することも問題だけれども、選挙管理委員会が棄権防止を訴え、マスコミが、「選挙は棄権しないで、皆で投票に行きましょう。投票は国民の義務ですから」と、自らの考え方、主義・主張もない有権者に、是が非でも票を投じさせようとしていることも問題である。
 こうした支持政党を持たぬ無党派層を狙って生まれたのが、今回の民主党なのだろうが、私はこうした無党派層が選挙で大きなウエイトを占めるようになった背景には、テレビと漫画による活字離れと、現在の記憶力重視の○×教育制度に欠陥があるように思えてならない。与えられた情報、主として映像を鵜呑みにして、自分では何ら考えない習慣が身についてしまい、ブームやマスコミ、他人の言動に簡単に左右される人が増えてきたためではないかと思われる。
 支持政党もなく、主義・信条もないにも拘わらず、マスコミの「選挙は国民の義務だ」という論調に煽られて投票場に出向き、仕方なく今最もマスコミ受けする人・政党に投票してしまう。こうした行為のほうが、投票率が下がるという弊害よりもその害は大きいと言わざるを得ない。
 景気も今一つ良くならないのは、バブル崩壊による資産デフレ不況が色濃く影響しているためである。しかし、これも政府が政策ねじれのまま数だけで集まって作った連立与党で、しっかりした政策を打ち出せず、今もってバブル絶頂期に地価を抑えるために導入した税制を含めた諸制度を改めないまま、放置していることが一番の原因であることは明らかである。
 だからこそ、今度の選挙では減税・行革政権が生まれ、きちんとした責任ある政策を提示し、資産デフレ・地価の下落にストップをかけ、景気回復のきっかけとなる政策をとることを願ってやまない。おそらく、何回かの選挙の後は民主党の狙う第三極の結集とはならず、共産党・公明党など比例区のみで選出される組織政党と、社会福祉に重点を置き増税となるリベラル政党、そして小さな政府をめざして行政改革に取り組み減税を断行する大政党の4つの党に分かれていくのだろう。とにかく、解散総選挙が行われることは歓迎であり、現在の政策ねじれの連立を一日も早く解消して過半数を確保した安定政権が誕生し、規制緩和を図り、大幅な減税と行政改革を断行して、日本の将来にはっきりとした指針を示してもらいたい。