藤 誠志エッセイ
新世紀を日米対等の時代に


難産の末のブッシュ共和党政権誕生
 長かった戦いがようやく終わり、21世紀初の米国大統領にブッシュ共和党候補の就任が決まった。総得票数で下回りながら、獲得総選挙人数で上回って大統領になるのは実に112年ぶりとのことだそうだ。米国は合衆国であり、各州ごとに一票でも多く取ればその州に割り当てられた全ての選挙人を獲得することができるわけで、一人でも多くの選挙人を獲得すれば大統領となる制度である。
 巷間、接戦で選ばれたブッシュ次期大統領は強い指導力を発揮できないと言われているが、私はむしろ、接戦を制しただけに難産の末に生まれたブッシュ次期大統領は父の政権での強力ブレーンを配し、レーガンばりの非常に強い大統領になると思う。
 大混戦を招き、新大統領の決定が大幅に遅れた原因は、冷戦が終結し国内外に重大な問題がなかったことと、ジョージ・ブッシュとアール・ゴアの両氏ともに2世の世襲政治家であり、人間的にも政治手腕にしてもあまり魅力的でなかったからとも言える。さらに、ゴア氏がなかなか敗北を認めず、司法の場に持ち込み、最終的には最高裁の判断に委ねるという前代未聞の展開によって5週間に亘って新大統領が決定しなかったわけで、この問題の結果は大きい。
 この混戦で一番得をしたのは誰かとなると、やはりヒラリー・クリントン氏と言えよう。もっと早くゴア氏が潔く敗北を認めていれば、勇気ある決断とし国民の評価も相当高まったに違いない。しかし、最後まで粘った挙句の敗北は、4年後の再チャレンジに暗い影を落とすこととなった。ゴア氏は、自分は負けてはいなかったしまだ若い、ゆえに次期大統領選においてもなお有力候補であり続けると自負しているようだが、世の中の進化のスピードは早い。
 おそらく、4年後には米国初の女性大統領登場を望む声が高まり、その声にゴア氏の存在など霞んでしまい、民主党予備選にも勝ち残れない事態も想定される。
 ともあれ、今後4年間、共和党のブッシュ氏が次期大統領に決まったのは、日本にとっては評価すべきである。ジャパンパッシング(日本飛ばし)と言ってもよいクリントン大統領の中国寄りの政策は、彼が意図していたわけではないが南北朝鮮統一の機運を助長し、大陸から米国を追い出し、あわよくば台湾も手中に収めようとする中国の深謀遠慮に手を貸してきたきらいがある。こういった中国の魂胆に歯止めをかける政策をブッシュ次期大統領は必ず採るであろう。伝統的に共和党の戦略は力の論理に基づくものであり、対中政策よりも対日政策重視の外交姿勢に転換する可能性が高い。
 そういう国際情勢の下で、日本は独立国として自衛権はもとより、集団的自衛権の行使の権利をきちんと主張すべく改憲し、独立自衛に必要な最小限度の軍隊を保有し、東アジアの平和と安定に寄与していかなければならない。そうしなければ、日本は近い将来、韓国と台湾が中国の勢力下に入り、核の照準を日本の主要都市に合わせ膨張を続ける中国の圧力を真正面で受け止めていかなければならない羽目となるからである。そんな現状から、今のままで日本はいいのか、という熱い議論が沸きあがり有事立法や憲法改正論議が高まってきたわけだが、もちろん跳ね上がり的に日本が軍事核大国化路線に傾斜していくことは避けなければいけないし、そうした方向に進まぬためにも選挙に勝利するだけで所属する政党ではなく主義・政策で一致する政党へとねじれを解消して、きっちり機能する健全な政党政治体制を創っていかなければいけないことは言うまでもない。
米国の国家戦略に沿った日本の戦後教育
 そんな目で新世紀を迎えようとしている日本を見ると、非常に寒々しい思いで心が塞ぐ。視野も狭く実社会での経験もなく世界観も歴史観も乏しい世襲政治家が跋扈ばっこし、マスコミの意図的な煽動報道や、世論調査の結果と称する支持率報道を頻繁に行い国民を煽り立て誘導し、時の総理を貶め政治家を躍らす構図を見るにつけ、21世紀の日本は本当に大丈夫だろうかと危惧せざるを得ない。
 新世紀が日本にとって明るく輝ける未来となるためには、国民一人一人が先の大戦の開戦に至る経緯と戦後の歴史をしっかり総括し、戦勝国米国の利益のための国家戦略に沿って戦後一貫して与えられてきた情報の根本に欺瞞や嘘、偽りがすり込まれていることを看破すべきである。そして、それに沿って実施されてきた日本の戦後教育と報道は自国にとってプラスになるはずはない。史実に基づき検証されて明らかになった真実さえも間違ったまま、誰もがおかしいと思いながらいまだ修正もされず、教え報じられている。
 今日の日本の非効率・高物価社会を一日も早く正し、天下りによる官僚支配の社会主義国的な現在の体制を、資本主義市場経済社会に機能する体制に即刻改めるために「今、何をする必要があるのか」を真剣に論じ、実行すべきである。
 一番の問題は、誤った方向に国民を導こうとするマスコミである。今まだマスコミ世論と称する世論を創り出しているのは、進歩的文化人と称する戦後教育を受けた記憶力勝者・偏差値エリート集団であり、誤った歴史認識を植え付けられ、それから発する報道は自虐史観に基づく戦前戦中の贖罪しょくざい意識に凝り固まっている。そのようなマスコミの扇動に躍らされず、真贋を見極め、真実を鋭く見抜く正しい世界観と歴史観を持つ人たちが一致団結して頑張り、21世紀の日本を正しい方向に導いていかなければならない。
 戦後の平和と繁栄は与えられたものであり、自らの力で勝ち取った平和と繁栄ではない。それは米国の国家戦略にとって有益だから採られた政策であり、今や冷戦は終焉し、新しい日本を取り巻く情勢は一変した。この新しい情勢をしっかり把握して防衛しないと、戦後に額に汗して蓄えた多くの資産も瞬く間に失うこととなる。そうした認識をしっかり刻み、この10年間を見れば、日本はバブル崩壊によるスパイラルに続くデフレで不良債権が際限なく増大し、金融システムがメトルダウンを起こし、BIS基準遵守の貸渋り不況と異常低金利による金利収奪 で、企業も個人も今まだ塗炭の苦しみを強いられている。
マネー経済からモノ経済への折返し点
 その日本経済の低迷ぶりを尻目に、8年間に亘るクリントン民主党政権下の米国は、レーガン・ブッシュ共和党政権時代に敷かれた大幅規制緩和と大型減税に冷戦技術の民間開放に負うところが大きいが、米国の国家戦略に基づく冷戦勝利後の経済戦争において、主要なライバル日本に対する対日金融戦略に基づく資産デフレとセットの日本の異常低金利資金に支えられての繁栄を享受してきたとも言える。だが、米国の経済は今度はブッシュ共和党新大統領の下、前半の2年間で厳しい現実にぶち当たるに違いない。今後、日本の金利が上昇するとともに米国の株価は大幅な調整時期を迎えることとなろう。モノづくりを伴わないマネーの鉄火場的経済はIT関連投資が一巡すれば厳しさを増してくるだろう。それに引き換え、日本の今の株価水準はかなり調整された観が強く、今後は反転上昇が期待できるし、今からはポストPCの時代、ITのモバイル化と家電化であり、いずれもモノ作りに長けた日本は強い。
 ブッシュ氏の前半の2001〜2年にかけて、10年間続いた世界経済はマネー経済からモノ経済への折返し点を迎えるような気がする。おそらく、今後は米国の株価は下がりだし、日本の株価は上がりはじめ、日本は政策減税を中心に地価の安定化政策をとれば1〜2年後から景気は良くなり地価も上がりはじめ、金利も上がり、デフレ経済からインフレ経済へと軌道修正される。資本主義の歴史はインフレの歴史であり、デフレはインフレの狭間に暫くの間あるにすぎない。歴史そのものを全体的に俯瞰ふかんすれば、今日の日本を苦しめているスパイラルなデフレ現象はいつまでも続くことがないことを示している。
 一日も早く適切な行政、財政、金融、経済の構造改革を図ればいずれ景気は回復し、金利も上がる。現在の2%前後の金利に慣れた多くの人は、これが普通の金利と思っているだろうが、金利が上がりだしてはじめて今の金利が異常だったことに気付かされるに違いない。 十年間に亘る西側世界のデフレは東西冷戦終焉に伴う東側の低賃金労働力とIT革命による情報・金融・物流・生産の合理化によって引き起こされたものであり、もともとあらゆるモノの値段は基本的にはタダである。タダのモノにどうして値段がつくのかは、どれだけその間に人件費がかかったかで決まる。原料づくり、加工、搬送、通信、販売に携わる人件費の総和がモノの値段と考えれば、安い人件費がもたらすデフレがいずれ終息期を迎えることは自明の理である。
 東西ブロックの経済の合併に伴う東側の低賃金とIT革命の合理化で、西側のデフレと同時に東側のインフレを生んだ。デフレとインフレが共存したこの十数年が終わることは、インフレの始まりを意味する。例えで考えればよく分かる。中央を仕切り板で分けて左右の水位の高さが異なり、その高いところに少しずつ水を注ぎ込んでいる水槽があるとする。その中央の仕切り板を引き抜いた場合、一時的に高いほうの水位は大きく下がり、低いほうの水位は上がる。やがて、波打ちながら水位が一定化するとともに再び水位が上昇するがごとく、インフレは始まるのである。20世紀は戦争による壮大な破壊とその修復で、経済の活性化とインフレを生んだ。21世紀は20世紀が生んだ技術の負の部分のケアで、地球環境の保護と高額なバイオ・遺伝子医療がインフレを生むこととなる。
政権交代可能な二大政党制へ
 20世紀から21世紀への橋渡しの森内閣は懸命に色々と手だてを講じているが、今の日本の閉塞感は「日本の地価はまだ高すぎる。地価が下ることは良いことだ」との一色になっているマスコミと大蔵・銀行の呪縛観念である。一日も早くこの呪縛から脱するためにも不動産政策減税を断行して取得と譲渡にかかる税を一定期間ゼロとし、保有にかかる税を大幅に軽減すれば、地価は安定化し、資産デフレに歯止めがかかる。これが今最も必要である。
 政治も政策的ねじれを解消し、切磋琢磨する政権交代可能な二大政党制を確立し、マスコミも本来の第四の権力としての使命に思いを致し、不偏不党の精神で国益と国民の側に立つ報道に徹し、教育は日教組の影響下から脱し、改革を断行し正しい歴史認識に基づく創造性あふれた人材を世に送り出し、新しい年は皆が未来に安心と期待が持て、自国に誇りと自信を持って暮らせる世紀の幕開けの年となることを願ってやまない。