藤 誠志エッセイ
資産デフレで失われた10年


不動産法制の改善が急務
 いまだ地価の下落を是とするマスコミ世論の呪縛から脱しきれない中、フローの経済だけを見て「景気は回復基調に乗ってきた」との政府見解も、そごうの債権切捨て救済策がマスコミ世論の風圧で破綻を来したことで、また一気に日本の経済が揺らぎ始めた先日、大手経済新聞の紙面に「不動産法制の改善は急務」というタイトルで、コラムが掲載されていた。その中で、福島隆司東京都立大学教授と久米良昭那須大学教授の両氏は「日本では都市開発が停滞し、不動産市場の低迷が続いている。狭い敷地に老朽化した木造建物が建ち並ぶ一方で、上部の空間が有効利用されていない。都市における地上過密、空中過疎の問題は、基本的には不動産を取り巻く制度に様々な不備があるためだと考えられる」と述べ、とくに「現行税制には不動産の低・未利用を有利にし、取引を抑制する歪みが存在する」と指摘し、さらに「固定資産税及び都市計画税といった保有税は、住宅に関しては三分の一に減額され、面積二百平方メートル以下の小規模用地については、さらにその半分の六分の一に圧縮される。こうした優遇措置があるために、土地を集約し有効利用しようとする事業者への売却が遅れることになる。小規模住宅用地の保有を優遇する措置は廃止する必要があり、建物の保有税も、所得の補そくが難しかった前近代に、負担能力が高い者から徴収するのを目的に定められた財産税の名残で、所得税中心の体系が整備された現代では不要なもので、保有税はインフラ利用の対価、すなわち応益税でインフラ供給の便益は土地に帰着するため、土地の保有税で徴収し、建物の保有税は撤廃するのが筋である」と述べている。
 「このほか、不動産取得税や印紙税も、税負担能力が高い者に取引段階で課税するもので、土地取引を妨げる。登録免許税も権利保護の対価だとされるが、不動産の権利保護に関してのみ特別な対価を支払うべき理由はない。これらの税は撤廃する必要がある。都市の建築活動全般に関係する都市計画・建築規制も、その過剰さが土地の低・未利用を助長している。」と指摘し、最後に「都市開発の停滞は以上のような取引阻害要因だけでなく道路や上下水道など都市部のインフラ不足にもよる。インフラ供給は、公的部門の重要な役割だが、日本の都市部では、収用制度や再開発制度の不備でインフラ用地の取得が遅れ、慢性的なインフラ不足に陥っている。これは地権者のごね得や選挙を気にする自治体首長らによる収用の敬遠などが原因である。いまこそ法制の欠陥を正して不動産市場を再生し、内需主導型の経済成長と豊かさの実感できる都市づくりを実現すべきである」と締めくくっている。
 まさに今の日本の閉塞状態は、いつまでも続く「地価の値上がりは悪だ」と声高に叫ぶマスコミ世論の怖さにバブル崩壊後の資産デフレスパイラルから脱する手だてを打てない政策不況であり、処理しても処理しても増え続ける不良債権の実態を隠蔽いんぺいし、全貌を明らかにしないで先延ばしにして低金利のフローの収益で処理しようとしていることである。
インフラの整備こそ日本版ニューディール政策
 現在の日本は欧米に比べてインフラの整備が劣悪で、東京の都心といえどもニューヨークやパリと比べれば、土地の有効利用という点では、両氏の語る通り、「地上過密・空中過疎」と指摘されても致し方ない。 なかでも、日本においては特に都市の道路整備が非常に遅れをとっていて、慢性的な交通渋滞はいまや東京や大阪などの大都市圏だけでなく、地方都市においても変わらない。これらも指摘のように、土地の収用に関する首長の姿勢が原因である。しかし、そういった原因を作り出している現行法制にこそ問題があることは言うまでもない。道路一本作るのに30年も50年もかかるような今日の状況を打破するには、土地収用に関する法改正こそ急務と言えよう。
 新生日本を創るには都市住民に配慮した政策が重要で、土地の高度有効利用を図ったエンターテイメント性の高いテーマパーク的都市づくりをし、中心市街地に緑の公園・広場をふんだんに造り、地下に大駐車場を設け、人と車の共生する街づくりで、遊(文化・飲食・ショッピング)・学(大学・専門学校・カルチャースクール)・ 職(ビジネス・創る・商う)・住(憩う・住まう・地域コミュニティ)が近接し、そこに至る十分なアクセス道路を完備することが重要である。 米国では高速道路のことをフリーウエイと呼ぶが、ほとんどのフリーウエイがその名の通り料金がかからず、またあらゆる道路からの乗り入れ・乗り下りが自由なのである。すなわち、無料の高速道路を使って最短コースで目的地に行けるというわけだ。
 もし、日本の高速道路の全てを無料化するとともに、もっと高規格の高速道路を作り渋滞を解消すれば、物流スピードがアップし物流コストが下がり、それで得られる経済波及効果は、高速道路の建設費やその利用料金から得られる収益と比べてもはるかに効果的である。全国の都市周辺部にばらまきで、造ったときから壊すときまで赤字でその維持費も出ないドームやホール、会館などの箱モノ公共事業から、快適都市空間のための交通渋滞解消と無料の高規格フリーウエイの建設に公共事業予算を集中すべきだ。バカ高い日本の高速道路は、天下りのための道路公団とその関係会社のために存在すると言ってもよく、まさにインフラ不備の象徴とも言える。
 資産デフレ・低金利の今、日本版ニューディール政策と言ってもよい都市部インフラの整備に全力を尽くし、大深度地下(通常利用されない地下60メートルより下の空間)の私有権を制限して、地下循環・横断道路網と、大型下水溝に電気・水道・ガス・通信線(光ファイバー)などを一体にして地中化し、他方、都市景観を台無しにしている電柱や電線をなくすなどのインフラ整備をすることは、まさに今がチャンスとも言えよう。
外圧でしか変革できない日本
 先日、NTT接続料金が、ようやく米国の圧力に屈して2年間で20%引き下げられることになったわけだが、これでもまだ米国よりははるかに割高である。
 通信料金の値下げがIT革命をいっそう加速させ、その結果多くのメリットを社会全体に還元するのであり、欧米と比べても、日本のインターネットアクセス料金は高く、米国では24時間繋ぎっぱなしにしても月額2000円程度。さらに、通信料金だけでなく、航空運賃もまたバカ高い。先日も北海道まで出張したが、往復で6万2千円の価格は、しょっちゅう海外に出かける私にすれば法外な料金に思えた。日本からニューヨークまで飛ぶ格安航空券よりも高いと言えば、いかに高額か窺い知れよう。
 羽田沖に東アジア最大級のハブ空港を増設して24時間稼働空港を造るべきだし、日本みたいな時差もない小さな国は単一料金にすべきであり、国内ならどこへ行くにも1万円で飛ぶ。そうすれば、現在飛行機に乗らない人もどんどん利用して、客席稼働率が上がり採算が合うはずだ。最近、全日空が実験的に一定期間、全国一律1万円の定額料金で運行したら、需要が爆発的に伸び、新規の航空需要客を掘り起こすことができたという記事が出ていたが、まさにその通りである。
 考えれば、日本はあらゆるものが規制に守られ、非効率な高物価社会を構築している。着陸料金が高いから、航空運賃も高くならざるを得ないし、半分が税金というガソリンの価格も当然米国に比べれば格段に高く、前述したように通信料金もまだまだ割高で、高速道路はどこも有料で、しかも年中渋滞のおまけ付きである。さらに、建築規制により、土地の有効利用は妨げられ、トリプル・マルチプルカウントとも言える懲罰的な取得・保有・譲渡にかかる税で不動産は流動化せず、建物には消費税に取得税、登録免許税、印紙税、さらに事業所税の取得税に保有税、さらには固定資産税、都市計画税、と数え上げたらキリがないほどの税が並ぶ。こういう税制が現在のデフレスパイラルを招いていることを政治家や官僚が気付いているとは思うが、気付いていながらも「地価の値上がりは悪だ」とのマスコミ世論を恐れて手の打ちようがないのかもしれない。この際思いきって不動産の譲渡と取得にかかる税をゼロとし、保有にかかる税を小規模宅地並みにするなどあらゆる規制を緩和・撤廃することが、デフレスパイラルの呪縛から解き放つ最良の方策ではないだろうか。
 外圧でしか変革できない日本の非効率・高物価社会を正すためにも、大幅規制緩和と政・官・業の癒着の温床である官僚の天下り禁止を図り、公社公団と、何万社とも言われるその関係会社・子会社・孫会社の清算と完全民営化を断行し、過度の規制を取り払うとともに、必要なインフラの整備を急ぎ、一日も早く非効率・高物価社会を脱するべきである。
 そうしなければ「失われた10年」という言葉の通り、今頻発している家庭内暴力・登校拒否児の激増・学校崩壊・青少年のいじめ殺害・凄惨な殺傷事件などに、また、株安・地価安・建築費安によりスパイラルに続くデフレ不況と、1300兆円の金融資産を無にするゼロ金利政策などの閉塞感に明け暮れるこの10年だが、このままでは21世紀まで持ち越して「失われた20年」となる。
 現実を正しく受け止め、マスコミ世論に恐れず、果敢に対処して国際社会からみれば当然な国家・国益に思いを致し、正しい歴史観と世界観を持ち「戦後55年間」を正しく総括して21世紀を迎えたいものだ。 誤れる自虐史観から脱し、真の国益を追及し世界に通ずるエリートの養成こそ、今回の教育改革の目的であるべきだと言いたい。