藤 誠志エッセイ
森内閣誕生に期待する


本格的景気回復への道
 政界は一寸先は闇、とよく言われるが、まさに小渕内閣の退陣は誰もが予期せぬ形でやってきた。その難局を打開すべく発足した森内閣への期待は大きい。石川県はもとより、北陸から戦後初めての首相の誕生は、二十数年来の親交に与かる私にとっても言葉に尽くせぬ喜びであり、また石川県民にとっても同じ思いであろう。私は総理就任早々にお祝いの電報を打ち、僭越ながら次のような主旨を申し上げた。
 本格的な景気回復には、まずスパイラルに続く資産デフレに歯止めをかけなくてはならない。そのためには、一刻も早く、かねてからの私の持論である「不動産政策減税」を断行すべきだ。不動産の保有に関して言えば、現在も地価が下落する中で、固定資産税は逆に上昇しているところが多い。また、不動産の取得に関しても、一般の商品の取得には消費税しかかからないのに対して、印紙税、登録免許税、不動産取得税に加え、建物には別に消費税がかかる。さらに人口30万人以上の都市などでは、2,000平方メートル以上の延べ床面積のオフィスやホテルなどには事業所税と称する、建物の建築主にかかる税(1平方メートル当たり6000円)と、さらに毎年使用(保有)にかかる税(1平方メートル当たり600円)が別にかかる。これなどはまさに税のマルチプルカウントであり、かつては、これに目下凍結されてはいるが地価税がプラスされていたのだから、不動産資産にかかる税の重さと多さには目を覆いたくなる。
 一方、日本の優良資産を買いたたいて買い、高くなったら売ろうとバルクセールなどで取得している外資は、SPC(特定目的会社)を活用して不動産を証券化し、取得に伴う税を負担せず、値上がりした段階で証券を売って高額な不動産課税を逃れている。こうした不平等を早急に是正するとともに、不動産の取得と譲渡にかかる税を5年程度ゼロ税率とし、事業所税を廃止し固定資産税などの保有税を半分程度に軽減しなけば、本格的な景気回復は望めない。郷土のホープである森喜朗先生が総理になられたのを百年に一度の好機と捕らえ、このような施策をもってスパイラルに続く資産デフレに歯止めをかけていただきたいと、旧知の仲の甘えもあって祝電に思いを託した。
1日で80年分の売上の資金調達
 森総理誕生の興奮がさめやらぬ先日、友人の英国人女性社長と米国人社長、それに私の尊敬する旧知の友人の大蔵官僚氏と割り勘で懇親の機会を得た。その折、彼は「いまだに日本の地価は高い。まだまだ下がるべきだ」との考えを述べた。
 そしてその日はたまたま米国の株価の暴落を受けて、日本でも株価が大幅に下落した日でもあった。一方、当日はインターネット上で仮想商店街「楽天市場」を運営する楽天が、店頭株式市場に株式を公開した日とも重なった。それは非常な人気銘柄であり、公募価格を相当上回って初値が付くと期待して公募株を取得していた人たちにとっては、株価は米国のIT関連株の暴落をもろに受け、初値は1990万円と公募価格(3300万円)を40%近くも下回り期待を裏切る結果となった。その後、値を持ち直し、3000万円で初日の取引を終えた。が、この楽天の店頭公開で私が驚くのは、公募価格を下回ったとはいえ、この初値と発行済み株式数から算出した時価総額が2455億円(日経新聞4月19日付夕刊による)と、また今回の株式公開によって調達した資金総額が466億円(朝日新聞4月22日付朝刊による)と超高額となることである。昨年の12月期決算の売上高がわずか6億円で利益が2億円にすぎないという会社が一晩で、約80年分の売上高に匹敵する資金を調達し、株式時価総額が年商の400年分というのは、いくら将来性が期待できるとはいえ馬鹿げている、と私が先の官僚氏に述べたところ、「その会社の将来性を考えれば別に驚くことではないと考えている」と答えが返ってきたことにはまたビックリした。そして、その集めた資金は自社の設備の増強などにはわずか20億円程度しか使わず、残りはベンチャーの投資に向けられると言うから何をか言わんやである。
 いったい起業家の成功の歓びは、事業の拡大を通じて雇用と需要を創造し、企業規模にふさわしい税を払い、社会的価値の創造にあるというのに、彼らは店頭公開とともに莫大な利益を手にしてはその企業の拡大の意欲をなくして転売に走り、また別の企業を創り、新たな公開を目指して一獲千金を求める一発屋に成り下がってしまう。
 IT関連株は上がるから買う。買うから上がる。だが、最初に額面に近い株価で投資した一部の人が巨万の富を得る反面、それに釣られて信用買いで投資した多くの少額投資家は、先月号の本誌エッセイ上で述べたように、ブラックホールに金が吸い込まれるように高騰と暴落の繰り返しですべてを失い、借金だけが残り、再起不能となる。そして、新たな少額投資家が次の高騰期に参入してきて、また一定のところまで上がったところで暴落する罠に嵌り、彼らの資金もブラックホールへと飲み込まれていくのである。こうした高騰・暴落を繰り返しながらも飽くことなく注がれる金は、一部の先行したIT勝者の投機家へと流れていくが、いずれこのあぶく銭もIT株の大暴落により水泡に帰することとなる。
 IT関連株の高騰は米国のIT関連バブルの影響そのままである。ということは、本家が崩壊すれば、日本は米国のコピー相場なだけに、大暴落は火を見るよりも明らかで、日本の低金利が米国の高株価を支え、その高株価の中身がIT関連株であり、このIT関連株が高騰と暴落を繰り返しながら株価はまだまだ暴落すると思う。
 日本のIT関連ベンチャーは、元祖米国をはるかにしのぎ、ネット株という名が付けば何でも持て囃されている。その結果が、1回の決算もない会社が上場したり、創業時から赤字の企業が上場したりして巨万の富を手にし、はたまた売上高数億円で利益も売上高もまだまだ小規模な会社が上場して時価総額が数百、数千億円となるなど、これは博打以上で、まとめて宝くじに何回も当選するようなものである。超異常低金利が続く中で、一方でスパイラルに不動産資産の値下がりが続くのは、銀行が不動産の購入に資金を融資しないためである。かの大蔵官僚氏は、「そもそも銀行融資は不動産担保融資ではなく信用貸しですべきだ」との持論を私に述べたが、信用貸しでのリスクを金利でカバーしようとすれば、まさに商工ローンの論理に陥ることになり、保証人を立てて金利も相当な高額となり一層の貸し渋りの原因となる。そもそも貸し渋り不況と言われる今日の不況は資産デフレにあるわけで、これ以上地価を値下がりさせないことで、安定して不動産資産が購入できる社会を創っていかないと、信用システムを維持していくことは困難と言わざるを得ない。
事業所税という名の追い出し税
 現在、都市の中心街の過疎化現象は全国的な問題となっている。金沢においても、金沢大学や県庁の郊外移転など、都心部から文化・行政施設がなくなりつつある。さびれゆく中心街を蘇らせるために、中心市街地に住宅を建設すると奨励金を支給したり、賃貸マンションを借りる人には家賃を一部補助するなどの施策を打ち出している。そんな結構な援護射撃の一方では、前述したように一定規模のオフィスビルやホテルに対しては、現行の不動産取得税や登録免許税、固定資産税や建物消費税にプラスして、さらに事業所税を課し、まさにダブルカウント、トリプルカウント、マルチプルカウントをしている。
 この事業所税は、私にとっては都市からの「追い出し税」以外のなにものでもない。
 都心部で定住する人口を増やすことは中心市街地の活性化には大切だろうが、それらの生計費の規模の消費では需要の喚起に限度がある。県庁跡地にコンベンションホールや国際会議施設を作るとともに、片町商店街地下に一大駐車施設を作り、中心市街地に1000室程度のホテルを作れば、毎日1500人のお客さんが寝泊りし、年間で約35〜40万人の人が宿泊する計算となる。そのお客さんが飲み食いや購買する消費額たるや、定住人口の比ではないはずだ。
 現在、金沢においては駅前周辺にホテルが集中している。そのため、観光客は駅前に泊ってアルペンの富山や能登、東尋坊の福井へと金沢を素通りしていくこととなる。もし、金沢の中心街に大型ホテルがあれば、観光客が片町などの繁華街を素通りすることもなく、商店や飲食店も大いに潤うことになる。県・市当局は全国的に企業誘致条例を設けて、一般企業(主として製造業)を誘致し、固定資産税の免除をはじめ、様々な助成策を講じている。ホテルなども企業として考えれば、これほど優れた労働集約産業はなく、建設に際しては建設需要を起こし、従業員など沢山の雇用を起こし、観光客を迎え入れ、さらに飲んだり食ったり買ったりの消費を喚起する。もっとも企業誘致条例を適用しなければいけない産業なのに、事業所税を課して中心市街地から閉め出し、追い出そうとは時代に逆行もはなはだしいと言えよう。
庶民の貴重な資産が消えていく
 こうした矛盾した施策を見直し、資産デフレに歯止めをかけ、前向きな建設投資に対しては、ベンチャー企業以上に、金融・税制面で支援をすべきである。私が毎回本誌エッセイ上で述べている不動産政策減税がなされないために、景気が回復せず、超異常低金利が定着し、博打的なIT関連株投資に走ってしまう少額投資家が跡を絶たないのではあるまいか。
 確かにIT関連産業の将来性には期待が持てる。しかし、そうした株式の株価は夢のまたその先を買うような価格になってしまっている。庶民の貴重な金融資産がブラックホールに吸い込まれるように消えていくのを、このまま放置しておいていいものだろうか。今回の楽天やオービックBCやインターQ、スクウェア、アルゼ、MIT、フューチャー、グッドウィル、オクラルなどの株式の時価総額がいずれも一千億円以上であり(フォーブス6月号より)、このような店頭公開株長者が続出していることも異常と思わない大蔵官僚、マスコミ、世間一般の考え方は異常というほかない。
 「木を見て森を見ず」という言葉があるが、全体を俯瞰すれば、十数年前に、日本中が不動産融資に狂奔し、不動産バブルを生んだことと、今回のIT関連株のバブルが重なるはずだ。今もまだ、あの不動産バブル崩壊後の資産デフレのスパイラルに苦しんでいることを思えば、市場を席巻する勢いのIT関連株に狂奔することはかつて来た道をもう一度歩むことになるのではあるまいか。同じ轍を踏み苦悶することにならないことを願ってやまない。