米大統領予備選も佳境へ |
今年は世界的に選挙の年である。米国をはじめ、イラン、ロシア、台湾、そして日本などでも総選挙が行われる。中で最も注目を集める選挙は、米国の大統領選挙であろう。その大統領選で共和党の候補者選びに大きな影響を与えるサウスカロライナ州の予備選の投票結果が、今朝の新聞紙上を賑わしていた。 「ブッシュ氏圧勝」の大見出しで、ブッシュ・テキサス州知事が対抗馬のマケイン上院議員に勝ったことを報じている。2月1日に行なわれたニューハンプシャー州の予備選で、マケイン氏に対して予想外の大敗を喫したブッシュ氏にとって、今回のサウスカロライナ州の予備選は正念場であった。そこでの勝利はマケイン旋風に歯止めをかけることとなろう。 勝利の感想を聞かれたブッシュ氏は開口一番、「ほっとした」と漏らした後、「それは正確ではない。興奮し、力がみなぎっている」と慌てて言い直した、と記事に出ていた。サウスカロライナで負ければ、その後のマケイン旋風は止まることなく吹き荒れ、ブッシュ氏の大統領への道は完全に閉ざされるところだっただけに、思わず口をついて出た言葉に本音がにじみ出ていた。この後も全米各州で予備選を行い、民主党・共和党両党の候補者が決まり、11月7日の大統領選挙に突入していくわけだが、1年の長きに亘って、いろいろな角度から吟味されて選ばれる米国の大統領選挙には、日本も見習うべき点が多い。 ともかく、今回のサウスカロライナにおけるブッシュ氏の勝利は、たとえ、この後不利だと噂されている、共和党員だけに限定されていないミシガン州や、マケイン氏の地元アリゾナ州でブッシュ氏が敗北したとしても、よほどの大差で負けなければ共和党の大統領候補はほぼブッシュ氏に決まったと言ってもよい。本来ならば、カリフォルニア州やニューヨーク州など共和党は12州、民主党は15州の予備選が行なわれる、いわゆる3月7日の「スーパーチューズデー」の結果で候補者が大体決まるものだが、今回のマケイン氏の敗北はこの「スーパーチューズデー」の結果をかなり厳しいものとするだろう。個人的には私はかつてのレーガン大統領を彷彿させるマケイン大統領の誕生に期待したいが、多分これで両党とも本命のブッシュ氏とゴア氏に決まったとみるべきで、そうなれば次期大統領に恐らくブッシュ氏が選出されることになるのではないだろうか。 ゴア氏もブッシュ氏もともに世襲議員で、年齢も50代前半と若い。が、その分、ひ弱さは隠しようもない。その点、マケイン氏がベトナム戦争で撃墜されて捕虜となりながらも、捕虜生活に屈せず帰還した英雄的存在の元海軍パイロットであるのと好対照を成している。マケイン氏は父も祖父も海軍大将という彼の家柄は申し分ないものの、大統領候補としては資金面と党組織を押さえていないことがやはり致命傷となるのではと思われる。 この8年間のクリントン―ゴアの民主党政権の政策には、今一つ私はピンと来ないものがあった。その点、共和党政権となれば対中国政策一つとってもこれまでの融和政策から牽制政策へと転じ、共和党の世界の現実を直視する「力の論理」による外交姿勢など様々な観点から、私は民主党から共和党に政権が交代することは世界の繁栄と平和の維持にプラスになると期待したい。 また、米国の大統領選に先駆けて行われたイランの総選挙では、ハタミ氏率いる改革派が単独では過半数とはいかないまでも、保守派を逆転して議席数を大幅に伸ばすことになろう。言論の自由や民主化への改革を断行し、ホメイニ革命以来のこれまでのイスラム教一辺倒の保守政治からの決別がようやく実現しそうな気配である。これも、イランとて世界の現実から隔離された存在ではあり続けられないという証しである。軌道修正せざるを得ないイランを見るにつけ、日本も今のままではいけないと強い危惧を禁じ得ないのは私だけではないはずだ。 |
争点なき総選挙 |
そんな目で日本に目を向ければ、目先の選挙にだけ捕らわれて、国益も国家戦略も論じる知識も常識もない政治家ばかりが目に映る。特に選挙が近付くとなおさらである。その代表的とも言える小渕首相は公明党に頼まれて沖縄サミット前には解散はないと匂わせてはいるが、予算成立直後の解散総選挙を視野に情勢分析をしていると思えてならないし、任期満了選挙に追い込まれないためにも私ならそうする。 今回は20議席を比例区から削減し、比例議席比率も少なくなり、しかも争点の見付けにくい選挙なだけに、創価学会との選挙協定如何によっては自民党の単独過半数確保も期待できるが、小渕首相は自・自・公の連立で過半数を確保すればとバーを低くして、たとえ敗北しても選挙の責任をとらずに選挙後も政権維持を目論み、日々伏線を張るのに余念がない。 そんな首相の弱腰と、自・自・公への反発からか、唯一の野党勢力とも言える共産党への票が伸びそうである。自・自・公連立で様々な懸案の法案が通ったことは評価に値するが、公明党との連立に反発があるのもまた事実で、その世論の反発が自民党に逆風となりそうである。が、野党第1党の民主党にも今一つ、鳩山党首へのヤミ献金疑惑などでひところの元気がない。要するに、どちらも魅力がないとなると、共産党にも票を投じたくない有権者は棄権することになる。しかも、争点がないのだから、得票率は下がる。そうなれば、組織を持つ自民党や公明党、特に共産党は有利となり、創価学会の応援が期待できない民主党や自由党・社民党には不利となることが予測され、いくら批判があろうとも、参議院の現実を考えれば選挙後もまた自自公と連立を組むことになろう。 |
小選挙区比例代表制に異議あり |
小選挙区制では個性のある政治家が一層選ばれにくく、国際情勢に通じ、国家戦略を論じ、経済を理解し、自国の歴史に誇りを持ち自らの歴史観と世界観を持つ政治家もだんだん少なくなり、ますます地域の利権にのみ奔走する小粒な政治家ばかりになる。こうした現状を打破するには、2倍の人口を持つ米国よりも200人も多い国会議員を大幅に削減して200人程度にし、一選挙区3人として3名連記の中選挙区制度の採用も視野に入れるべきかもしれない。 こうした議論も現在の選挙制度で何度か選挙を重ねるごとに煮詰まってくると言えよう。しかし、選挙制度が変わってから、6年も経つのにまだ選挙は1度っきりしかないというのだから、話にもならない。さらに、参議院なども一度当選すればそのまま6年間も任期が続くのだから、かつて11年も前の消費税導入時のバカ騒ぎの余韻で得た議席比率の是正がいまだにできず、小党が乱立していていずれも過半数がとれず、世の中の変化のスピードが速くなっている今、現在の世論を反映しているとは言い難いのに、いつまでも現状の改革ができない。一方、過半数を確保しようとして多数党が少数党を取り込めば、少数党の政策を多数党が実行しなければならないという歪な図式が生まれる。選挙で多数党となりながら、第1党・第2党ではなく、実際の政策はキャスティングボートを持つ第3党以下の少数党の意見に翻弄され続けることになる始末。地域振興券などというバカバカしい政策が行われた悪しき例や、自民党も自由党も民主党も比例区の議員を大幅に50人以上削減すべしとの意見を持ちながら、公明党の主張で20人の削減にとどまったことなどを見れば、それも納得できよう。 そうした滅入る事ばかりの中で一服の清涼剤となったのが、東京都知事選挙で石原慎太郎氏が自民党や民主党などの推薦もなしに当選し、フリーハンドで政策の立案をしていることである。大手銀行に外形標準課税を導入する条例案の提出、ディーゼルトラックの都心への乗り入れ時の排ガス規制など、思いきった政策を次々と打ち出して、周囲を驚かしている。政党の推薦、公認を受けていたら、こうはいかなかったはずだ。 都知事選でさえ政党の推薦、公認ではしがらみを脱するのが難しいのだから、衆議院の比例代表議員などは、推して知るべしである。もともと、小選挙区制は選挙費用が掛からず、地盤が安定するというメリットがあるということから生まれたはずだったが、現職の大臣や総理経験者でさえ自分の選挙区が心配で、国政に携わる余裕がないのが実情である。それでは本末転倒の選挙改革だったことになる。 |
1年かけて選ぶ最高の仕組み |
米国の大統領選挙は、1年かけて大統領になるべき人物の資質をあらゆる方向からチェックしながら選んでゆくために、国民の政治への関心が高まり、候補者もいろいろな角度で勉強し、政策面での議論をしっかり身に付け、発言ミスや知識のなさが致命傷とならないように世界情勢に通じ、世界の平和と米国の国益に沿って、日々指導者としての資質を磨いてゆく練成の場として最高の仕組みと言える。 この大統領選と、日本の総理の選び方を比べると、うすら寒くなるのは私だけだろうか。国民の支持とは関係のない身内での派閥の数の論理で選出されるだけであって、どうしてこんな人が総理になったのかと首を傾げてしまう人物がここのところずっと続いている。日本も首相公選制も含めて選挙制度の改革に本気で着手すべきであろう。先月号のこのエッセイで私は「選挙権は18歳以上の人に1票、所得の10%以上の納税者にはもう1票プラス、さらに30%以上の高額納税者にはさらにもう1票で計3票というような累積投票制にするとかして、国民が納税の義務と納税者の権利により一層大きな関心を持つような政治制度に改革を図ったらどうか」と書いた。こうした提案も、21世紀を迎えようとする今、戦後55年を総決算する上で、大幅規制緩和と減税・教育改革、行財政改革、憲法改正論議とともに、選挙改革も避けては通れない重要課題であるからだ。 今後、世界はどのように変化していくか予測は難しい。隣国の情勢もどう混乱を来たすか読めない。特に一党独裁体制の中国で、このまま混乱がなければ10数年後には日本を上回る軍事力を持つ国になる、しかし13億の民を統治し続けた国は歴史上現在の中国を除いては存在しない。経済は資本主義、政治は社会主義という歪な体制がいつまで続くか誰にも分からない。もし、軍管区ごとの富の格差の拡大の矛盾で内戦が勃発したら、核を持つ大国ゆえ日本に重大な影響を及ぼすことは必至であり、北朝鮮が内部崩壊して大量に難民が発生しても、また然り。パワーポリティックス(力の論理に基づく外交)に差配される世界の現実から目を背けて、いつまでも自虐史観に基づく歴史教育と謝罪外交を重ねていては、日本の将来に不安の種はつきない。 一日も早く独立自衛の国軍を有し、日米安保体制を平等互恵の双務的条約に改正し、近い将来訪れるやもしれぬアジアの危機に対応できる、新しい枠組みの政治体制をつくるべきではないか。日本人が自国に誇りと自信を持ち、米国の植民地的半独立国家に甘んじることなく、政治家も経済人も「国民の幸福」を目的に誇りをもって国家運営をして、21世紀の新しい日本を創造していってほしいものである。 |
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